382館という前代未聞の規模で復活上映を行なっている映画『THE FIRST SLAM DUNK』。8月13日の公開を前に、制作スタッフが事前情報をほとんど明かさなかった理由を語った。(全3回の3回目/#1#2を読む)

 

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それが“最良のプレゼントの渡し方”だという思い

――本作は公開前、ストーリーについての事前情報がほとんど明かされず、関係者向け試写会も一切行われませんでした。それは何故だったのでしょうか?

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小池 極めてシンプルな理由からでした。まずひとつには、井上監督の思いがありました。昨年8月15日の終映に際してのトークイベント(「COURT SIDE in THEATER FINAL」)で監督自身も話されていましたが、映画を楽しみに待ってくれている人の楽しみを奪ってしまうことになるからです。プレゼントの中身を「これです」と言いながら渡す人はいないし、中身を知った時の喜びを大切にしてもらうのならば、ちゃんと包装して、しっかり渡したい、といった「思い」からでした。

 事前情報ナシで公開に踏み切った事に対して、すごく高度な戦略のような評価の声もありましたが、決して「方式」でも「戦法」でも何でもなく、それが最良のプレゼントの渡し方だとスタッフ全員が理解し、一番喜んでもらえると思っただけでした。そこに、例えば、「焦らそうとしている」と思われるとか、少しでもマーケティング的というか戦略っぽい気持ちが入ったら、おそらく全く違う届き方になってしまうはずだ、という危惧さえ感じていました。

 だから、ただただ何も言いたくなかった(苦笑)。究極、本音としては『スラムダンクの映画である』ということ以外、何一つ言わないまま、突然公開したかったくらいでした。

©︎石川啓次/文藝春秋

情報が漏れなかったのは「喜んでもらえる顔が見たい」から

――一方で、TVアニメ版当時(1993〜96年)から一新された主要キャストが発表されたとき、「ムビチケ発売後に発表したのは、キャスト発表前にチケットを買わせる作戦だったのか?」という誤解が生まれ、一時、SNSで炎上気味な騒ぎになりましたが。

小池 はい。そう思うかたがいらっしゃるのも理解できますし、『スラムダンク』のファンだからこその声だったと受け止めています。もちろん全くそんな気は無かったですし、配慮が足りなかった部分もあると思います。「ちゃんと包装して渡したい」と先ほど言いましたが、公開までの道のり(宣伝)の中で、どのようにこの作品を受け取ってもらうかを考えながらの情報公開でした。

――しかし、今思うと、よく公開まで情報が漏れませんでしたね。

小池 そうですね。個人的には、制作期間のなかで、制作チームのみんなと監督と会話を重ねた結果だと思っています。人って、「これ秘密だよ。絶対に言っちゃだめだよ」とかいうものって、結局どうしても誰かに言いたくなるじゃないですか(笑)。でも「こうやって届けたいね」「こんなふうに喜んでもらえる顔が見たいね」とわくわくして準備をしていると、逆に絶対に言いたくなくなる。だから一切の漏洩が無かったんじゃないでしょうか。エンディング主題歌「第ゼロ感」と音楽を手掛けた10-FEETのTAKUMAさんも、「チームが本当に楽しみにしているのが伝わってきたからこそ、絶対誰にも言えなかった。親にも言えなかった」とYouTubeで語っていましたから。