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養老 もちろん。ゾウムシはずいぶん菌食いのやつが多い。キノコを食うやつはもうヒゲナガゾウムシに特殊化してますからね。僕が学生の頃と比べて一番変わったのは生物を3つに分けることです。動物、植物、菌類という。今、虫が減ってるのには、菌類の構成が変わっている可能性がある。

キクリン その要因は、どんなことが考えられるのでしょうか?

養老 人が土をいじるからでしょう。農耕の歴史が1万年ある。一昨年(2022年)、ゲイブ・ブラウンっていう人の本が出たんです。『土を育てる 自然をよみがえらせる土壌革命』(NHK出版)。これはアメリカの農家の話です。化学肥料をやらない、除草剤をまかない、殺虫剤をまかない。いわゆる有機農業ですね。プラス、耕さない。ジャガイモを作るなら、自分の畑に種イモを置いて。上に枯れ草をかけて終わり。普通は掘るでしょ。

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電子顕微鏡でゾウムシの部位の識別を行い、地域変異を調べることを説明する養老孟司さん ©野澤亘伸

 そうすると菌が網の目のように土に構造を作ってるのを壊してしまう。ほとんど目に見えないから、そういう構造に注意してこなかった。それからもう一つは人間の癖でね、やっぱり、種イモを置いただけでジャガイモができたっていうと気に入らないんじゃないですか。額に汗してその成果が得られたっていう気持ちをもちたいから。でも、自然に関してはほっとけばいいんです。雑草も何もかも生やしておいて、その中に作物を置いていく。それでダメなものはダメだと諦めるしかない。

日本の土壌が豊かな理由 

キクリン 山に入っていて、虫が減ったなと感じる地域はありますか?

養老 どこも減っているでしょう。

キクリン 一方で、見たことがない虫が増えていたりすることがあります。外来種だったりとか......。山林自体が減れば虫も減るのは当然だと思いますが、国土がこれだけ緑に覆われている国は世界的にも少ないんですよね?

養老 数字で計算すると、日本の山林の割合は北欧に匹敵している。北欧は木を切れないんですよ。下が永久凍土で、森を切ると湖に変わっちゃうから。でも、日本の場合は切りまくっているのに残っているんだよね。 

クヌギに絡んだフジを登り、樹上10m以上の高さでオオクワガタを探す菊池愛騎さん ©野澤亘伸

キクリン なぜでしょう?

養老 やっぱり東南アジアモンスーン地帯というのがあるでしょう。しかも温帯でしょ。熱帯はすぐに熱帯雨林になってしまうので、表土が薄いんです。でも日本は厚い。

キクリン 黒土がこれだけある国も少ないそうですね。 

養老 一つは火山があるから。長年の間に火山灰が積もる。もう一つは中国から黄砂が飛んでくる(笑)。毎年空が曇るくらい飛んでくるんだから、それが1000年経ったら大変なものです。実は、火山というのは恵みなんです。ジャレド・ダイアモンド(進化生物学者)が太平洋の島々を調べて、文明が続く島と続かない島があるという。島は資源が少ないから森を切り尽くしてしまって終わる。その中で島に森が残る条件をいろいろ挙げていますが、一つに火山が入っている。もう一つが黄砂です。

キクリン 黄砂は意外でした。