虫好きで知られる養老孟司(86)さんと、最強のクワガタ・ハンター菊池愛騎(39)さんとの対談が実現した。養老さんはゾウムシを求めて、80代の今も海外まで採集に行くほどエネルギッシュだ。

 一方の菊池さんは、最強の採集家集団“インフィニティー・ブラック”の二代目リーダー。彼らが探し求めるのは日本昆虫界のスーパースター・オオクワガタだ。採集難易度が極めて高いにもかかわらず、メンバーは新規生息地発見に挑む。断崖絶壁や雪山、真夜中の森での熊や心霊現象にも怯まない。好きな虫がゾウムシとオオクワガタであっても、ともに自然界のロマンに引き寄せられているのは同じだ。

 菊池さんの属するインフィニティー・ブラックの活動を3年にわたって追った『オオクワガタに人生を懸けた男たち』(野澤亘伸著・双葉社刊)より、二人の熱血対談を紹介する。(全3回の1回目/続きを読む

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養老山荘のテラスにて菊池愛騎さんと養老孟司さん ©野澤亘伸

わからないから面白い

養老孟司(以下、養老) 僕はラオスやブータン、マレーシアによく採集に行くんですけど、「何が採れるんですか?」って聞かれる。採れるものがわかっていたら行かないよ。今の人はなんでも計画通りじゃないと気が済まない。

菊池愛騎(以下、キクリン) オオクワガタの採集でも、それと近い部分があります。いるってわかっている場所には特に興味がないですね。いるかどうかわからないから、探すのが楽しい。

養老 僕はゾウムシ屋なんだけど、場所によって個体に変異があることが多い。だから同じ種類でも丁寧に採るので、標本の数が増えてどうしようもない(笑)。 

キクリン 自分はオオクワガタも地域ごとの違いを感じています。それは虫の動きとか生態的な部分で形になって現れている部分がありますね。

養老 僕はオオクワガタを採ったことがないんです。生きた姿にお会いしたことがない(笑)。

キクリン 場所によって昆虫の個体や生態に少しずつ違いが現れてくるのは、地形の成り立ちの歴史に関係あるんでしょうか?

養老 完全に歴史でしょう。孤立した集団はひとりでに遺伝子が特定のタイプに固定していきます。1個の遺伝子じゃなくて全体ですね。

初めて生きた天然のオオクワガタを手にした養老孟司さん ©野澤亘伸

キクリン 自分が気になっていることがありまして、雪国のオオクワガタは雪が積もるような低い場所には滅多に(卵を)産まないんです。でも山梨とか平地の里山にいる個体は関係なく産む。雪国で産まなくなったのは、低いところに産まれた子たちが絶えてしまったからでしょうか? 学習するってことはないと思うんですけど。

養老 学習はしないでしょう。ただ、本当かどうか昔から言いますよね。雪の多いところはカマキリの卵が高いところにある、と。

キクリン 夏にはその場所に雪が降るなんてわかりませんから、たぶん湿度に反応してるんだと思います。雪はけがいい場所では、低いところでも生んでいたりするんです。ここには雪が積もらないことを想像できないだろうから、そうなると湿度を感知しているとしか思えない。

養老 他に彼らが何かを察知する要素としては、例えば我々には菌類が見えてない。菌類の生態系が違っている可能性もある。菌は見えないので、研究が遅れてるんですよ。 

キクリン 虫は感知してますよね。