キクリン うちは子どもが4人いるんですけど妻が虫嫌いなので、長男は最初から母親の反応を見て虫が怖いという概念をもっちゃったんです。でも次男は自分と一緒に遊んできて、そうすると毛虫でもなんでも触れる。それはダメだってやつも関係なくつかんじゃう。本当に親を見てるんだなあって思います。先生の奥さんはどうなんですか? 

養老 無関心。ただうちの奥さんは目がいいんでね、一緒に行くとよく見つけます。最近は虫好きな女性も多いですけどね。

キクリン 結構ジャンルが固定されている気がします。

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養老 毛虫、芋虫だね。

キクリン 男の方が虫が好きだって自己表現してるだけなのかもしれないですね。女性でも虫が好きな人はいっぱいいます。山に行っていると、自然が好きで登ってくる女性の方がたくさんいるんですよ。たぶん、そういう人は生き物が好きだから、虫好きな人も結構いると思います。 

天然オオクワガタは、普通に探して見つけるまでに5〜10年かかると言われる ©INFINITYBLACK

とにかく虫のことを知りたい 

キクリン 先ほど土壌の歴史の話をうかがいましたけども、氷河期に生き残った虫は、どんなものが多かったのでしょうか? また、それが現在に繋がっている部分としては?

養老 ラオスあたりに行くと面白いんですよ。あそこは今では熱帯と亜熱帯でしょ。だけど氷河期の頃の虫が生き残っているんです。そういう寒い系統の虫が採れるのは日本に似ているなと思う。普通は暑いと、そういう虫は標高の高いところにしかいられない。日本はそうでしょ。西日本は高い山がないので、寒い系統のやつはみんないなくなった。

 ただ変なのは紀伊半島で、それが逆転する、(低地に寒い系統の)虫がいる。なぜかというと紀伊半島は渓流と谷が深い。崖面は鹿が食わないし、そういうところに生えている植物についてる蝶なんかは、むしろ渓流の下の方に残ってるんですね。そこは、言ってみれば寒いところだから。 

キクリン 紀伊半島にはそういう場所があるわけですね。

養老 そういうことを調べて本を書いた人がいますよ。高校の先生だったかな? はじめは学会であまり信用してもらえなくて。紀伊半島にそんなものがいるか、ってね。

キクリン 高校の先生が書いたっていう話ですけど日本の昆虫学って基本的にアマチュアの方が進化させてきたことだと思うんですけど。

養老 だいたいその「学」っていうのは、人間が勝手に決めてる。「お前のやってるのは学じゃねえ」って言われます。僕は学会っていうのを「業界」って呼んでいるんですよ。何らかの意味で商売つながりでしょ。 

キクリン なるほど、そういう話になっちゃうわけですね。

養老 僕らがやっているのは、商売じゃないもん。

キクリン だから楽しいっていうのがありますよね。商売にはできそうもない。自分の好きなことですから。 

養老 面白いからやってる。それが十分な見返りですよ。

山荘の庭にある「バカの壁」の前で語る菊池さんと養老さん ©野澤亘伸

キクリン 一緒です。あと自分は知りたいっていうことだけですね。どうなっているのかを知りたい、どこにいるのかを知りたい、この時間は何やってるんだろうとか。とにかく自分がフォーカスしている虫のことを知りたいっていう一心ですね。それを見つけたときはやっぱり嬉しい。