採集圧で虫は減るのか 

キクリン 人間が虫を採ることで一つの種が非常に減少したり、絶滅したりすることはあるでしょうか?

養老 ありえない。砂漠のオアシスのように、非常に限られた場所なら確かに採集圧がかかると思いますが、やっぱり環境破壊が一番大きい。 

キクリン オオクワガタは知名度が高い種類というか、数が少ないことも広く認知されているので、人間が採るから減るんだ、みたいなことを言われたりします。

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養老 採った分だけは確かに減りますね。

キクリン でも、自分が山に入って見ている限りは、回復するんです。例えば決まった木にオスは1頭しか入れない。メスは産卵に行くから入れ替わる。そこでオスを採ったら、違うオスが入るんですよ。もし最初のオスを採らなかったら、次のオスは入れなくて捕食されると思うのですが。

カミキリムシの幼虫痕の中で越冬していたオオクワガタ ©INFINITYBLACK

養老 どのくらい産卵するんですか?

キクリン オオクワガタは産み分けをしています。1回産卵してから一度樹液に帰ってきて、また産卵に行って、というふうにしています。飼育下では1回に30個は産んでいたりします。

養老 30のうち1匹残ればいいわけですよね。だから残りの29匹は採っていいんですよ。

キクリン 本当にそのくらいの感じがします。採ろうと思っても、全く採りきれないというのが実感ですね。通常では、採集圧で虫は減らないと自分は思っています。 

虫に親しむ土壌 

キクリン 日本には虫に親しむ土壌があるように思うのですが。

養老 去年、イギリス人の女性が調べに来ていた。カルチャー・エントモロジストって言ってたな。つまり、文化人類学っていうのがあるように、文化昆虫学ということでしょう。やっぱり身近にたくさんの虫がいて、親しいからじゃないですか。僕はオーストラリアにいた時期があるけど、あそこは虫が身近にいませんからね。採っていると、とんでもないものが見つかることもあるけど、普通にいる種類は日本と全然違うんです。クワガタは変なのばっかりですよ。

養老山荘のテラスにて ©野澤亘伸

キクリン 最近では日本でも子どもたちの虫離れがすごく言われるんですけど、小さいときに虫と触れ合うことが育んでくれるものって何でしょうか? 

養老 言ってみれば虫は自然の象徴ですからね。触れ合うことで、背景に大自然があるっていうことにだんだん気がつく。やっぱり親しむ方がいいんじゃないですかね。だいたい小学校以降がダメなんですよ。僕、保育園の理事長を30年やってたけど、保育園の子どもは虫を好き嫌いしません。なんでも平気で捕まえるから、危なっかしいくらいです。 

キクリン 子どものときってそうです。危険かどうかを、自分の目を通して学ぶんですよね。

養老 そうなんです。オーストラリアにいたときに、ドイツ人の医者の夫婦がいたんだけど、子連れで家に呼んだら、2歳の子どもが床這いしてなんでも口に入れる。向こうの家は靴で入るでしょ。「汚いよ」って言ったら、「大丈夫、食べられないものは吐き出すから」と。そういう育て方してました。虫に馴染めない子は、大抵はお母さんが嫌いなんじゃないですか。