昨年上梓した四谷怪談のルーツや解釈と共に「お岩さん」関連の怪談を所収した『眠れなくなる怪談沼 実話四谷怪談』の出版イベントのときに、来てくれたお客さんの中に「この本を読んだら、ものもらいになって目が腫れた」とおっしゃる人がいました。

ものもらいと、目が潰れてしまった四谷怪談のお岩様を関連付けたのでしょう。

実際には、因果関係があるのかどうかはわかりませんし、作家として責任も持てません。

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でも、偶然で片付けたくない気持ちは、同じ怪談好きとしてわかるんですよ。

私は怪談を手がける前に、AVに出演したり、官能小説を書いたりしていた時期がありましたし、離婚も経験しています。そして再婚して子育てもしました。学歴も高くない。

そのせいか、夜職や性風俗業で苦労された方や、挫折の多い人生を歩まれた方、とくに女性にとっては話しやすく感じられるようです。

あくまでも私の実感ですが、怪異体験を経験した方には、虐待やいじめを受けた過去を持っていたり、家庭に問題があって周囲から孤立したりと厳しい環境で生きてきた人が多い気がします。

対話しているうちに身の上相談のようになっている場合も珍しくありません。

歴史や土地の記憶が入り込んでくる

人は、現実の苦しみから逃避するために空想したり、妄想したりすることもあります。

体験者さんのお話を傾聴していると、ときには、ご自身の精神状態を正常に保つために存在しない友だちや家族をつくったのかなと思うような話もあります。

客観的に見れば妄想や空想と片付けられてしまう話なのかもしれませんが、体験談は、その人にとっての事実です。

だから私は、体験者の話を空想や妄想と決めつけずに「主観的な事実」として話を聞かせてもらうことにしています。

それが、怪談作家としての私の役割なのではないかとすら考えているんですよ。

基本的に体験者は市井の方たちで、日常では親身になって話に耳を傾けてくれる人も少ないでしょう。私は傾聴して、彼らの人生の断片を怪談として形に残したい。