岸田さんの周りでは続々とネタになりそうなことが起きるのか?

 または、発熱して寝込んでいるタイミングを見計らったように、突如として自室の天井から漏水し、しかもそれがいくら調べても原因不明という「天井から今も雨が降り続いている人間の記録(漏水ビチョビチョ日記)」。

 これらを「100文字で済むことを2000文字で伝える」スタイルで書きまくる。

 なぜエッセイの格好のネタになりそうなことが、岸田さんの周りではかくも続々と起こるのか?

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「思うに、私の身に降りかかる出来事の発生条件は、3つあります。まずは持って生まれた運の悪さが3分の1。そんなことある? っていうようなことが、私の周囲では平気で起こる。漏水の話だって、私はただ部屋に住んでいただけですよ……。

 次の3分の1は怠惰と言いますか、常にドタバタしている性格が事件を招いていることは、自分でも気づいています。焦っているとき、人はヘンな選択をしがちじゃないですか。それでよけい深みにハマっていってしまう……。

 あとの3分の1は、ビッグマウスかしゃべり過ぎによるもの。ぽろっと口にした『いらんひとこと』が、人をすごく怒らせたり喜ばせたりして、混乱を引き起こしてしまう……。

 ということは、生まれ持った悪運はしかたないにしても、あと3分の2は自分のせいです。たいへんな目に遭うのもしょうがないのかもしれません」

 

「あ、みんなはこうじゃないのか?」

 生活していくにはたいへんそうだが、作家・エッセイストとしてはネタに困らなそうで何よりである。そんな境遇をラッキーと思っているだろうか。

「いえ、自分の周りにばかりいろんなことが起きているなんて、そもそも気づいていませんでした。書いて世間にぶつけるようになって、『よくまあこんなこと次から次へと起こるなぁ』と呆れられて、初めて『あ、みんなはこうじゃないのか?』と知りました。

 家族がわりと特殊だっていうことも、書いて発表して世間の反応を見て、ようやく理解したくらいですから。

 そういえば、最初の本を出したあとに糸井重里さんからアドバイスをいただいたことがありました。『人の不幸は蜜の味』だからトラブルやひどい目に遭った話はたしかにおもしろい、でもそればかり書いていると不幸を探し歩くようになるよと。

 いまも肝に銘じてはいるんですけど、不幸を探しているというより勝手に出来事がやってくるから、どうしようもない面もあるなとじつは心の中で思っています」