NHKプレミアムドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」が人気だ。昨年BSで放送されるとドラマ好きの話題となり、ギャラクシー賞奨励賞やATP賞奨励賞を受賞。この7月からは地上波で放送されている。

 原作は、作家・岸田奈美による同名エッセイ本である。家族と身の回りのことを書きつづった内容が、そのままドラマの素になってしまうとは、この書き手はいったい何者か?

 本人の言葉で解き明かしてもらおう。(全2回の1回目/続きを読む)

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岸田奈美さん

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家族がわりと特殊なことに、気づいてさえいなかった

「100文字で済むことを2000文字で伝える作家。一生に一度しか起こらないような出来事が、なぜだか何度も起きてしまう。」

 とのキャッチフレーズをみずから掲げる岸田奈美さんは、神戸市の北区で生まれ育った。中学生時に父を突然死で亡くし、高校生のとき母が心臓病で倒れ、下半身不随で車椅子生活となる。弟が生まれつきダウン症だったこともあり、障害を持つ人が生きやすい世の中を目指そうと、関西学院大学人間福祉学部社会起業学科へ進学した。

 在学中からユニバーサルデザインを広めるスタートアップ企業に創業メンバーとして勤務。ブログサービス note に書いた家族についてのエッセイがバズったのをきっかけに、作家として独立。noteのフォロワー8万6千人超、Xのフォロワーは25万人弱という膨大な読者を獲得するに至っている。

 2020年に最初の著書『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』を刊行以来、ことし6月の『国道沿いで、だいじょうぶ100回』に至るまで、5冊の書籍も立て続けに出ている。すべて過剰で、かつハイペースだ。

 岸田さんが書きつづるのは、自分と家族の身に日々巻き起こる、トンチンカンなあれこれである。

 たとえば、お金を持たない弟がコンビニから商品を持ち帰ってきて、すわ万引きかと母親が店へ飛んでいって頭を下げ続けた顛末を語る「弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった」。