明治天皇はシャンパンが大好き
明治天皇の晩酌については、長らく侍従を務めた日野西資博の証言が役に立つ。
彼によれば、明治天皇は、日本酒、ワイン、シャンパン、ベルモット、保命酒、霰(あられ)酒を好んだ。そのいっぽうで、ウィスキーやブランデーはほとんど飲まなかった。どうやら10〜20度ぐらいの酒が好きだったらしい。
ベルモットは白ワインに薬草類を浸して作ったリキュール、保命酒と霰酒はそれぞれ広島と奈良の名産品である。
なかでも天皇はシャンパンが大好きだった。すでに紹介したように、一晩で2本飲むことさえあった。
天皇はどんな酒でも「注いで差上げれば、それこそ何杯でも召上る」上戸だったが、シャンパンの場合とくによく飲むので、侍従はあまりシャンパンを出したくなかったという。
今回はせっかくなので、1本はシャンパンを用意した。そしてもう1本は、「外国におとらぬものを造るまでたくみの業にはげめもろ人」の御製を踏まえ、国産のスパークリングワインを用意した。
天皇はコップで酒を飲んでいたとされる。酒器や食器はありあわせなので、その点はご容赦いただきたい。
毎晩食べていた「鶏酒」とはなにか?
酒には肴がなければならない。これは千古不易の真理である。日野西によれば、天皇の夕食にはかならず鶏酒が出された。
耳慣れないが、鶏酒は、塩を振って軽くあぶった鶏肉を茶碗に入れて、上から熱燗の日本酒を注ぎ入れ、お吸い物のようにした料理であるらしい。
季節によっては、鶏肉の代わりに鴨肉や雉肉が使われた。その場合は、鴨酒や雉酒といった。
どんな味がするのだろう。鶏肉は鶏肉、日本酒は日本酒で別々に飲み食いしたほうがよいようにも思うが……。さほど難しくなさそうなので作ってみた。
天皇はたいてい抱身(胸肉)の部分を食べたというから、鶏の胸肉を購入し、一口大に切り、塩を揉み込んで火を通した。そして茶碗に入れて、熱燗の日本酒を注ぎ入れた。
見た目は地味。これをシャンパンとともに食べる。まったく味の予想がつかない。
天皇はもともと日本酒が好きだったが、侍医の薦めで、ワインに切り替えた。そのため、鶏酒は日本酒を飲める数少ない料理だった。
もっとも、周囲は天皇の健康を考え、段々と鶏肉の量を増やして、日本酒の使用量を減らしたという。今回作ったものも鶏肉が多いため、健康志向といえるかもしれない。