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シャンパン+鶏酒=危険な和洋折衷

 ついに明治天皇の晩酌が完成した。本当は品数が20種類ぐらいあったらしいが、「華を去り実に就き」(『戊申詔書』)ということで、これに留める。アスパラガスの緑に、イクラの赤、牡丹餅の黒に、鶏酒と鰈の白。彩りとしてはまずまず。

完成!

 やはりここは謎の料理・鶏酒を真っ先に試さなければならない。お椀を覗き込むと、日本酒に鶏肉の油が浮かんでいる。どれどれと思い食べてみると――これがなんとおいしい。

 鶏の胸肉は淡白だが、日本酒のおかげで噛むたびに旨味が染み出してくる。そしてそれ以上に絶品なのは汁の部分だ。いい出汁がでていて、日本酒独特の匂いが感じられず、なんとも飲みやすいのである。

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 調子に乗ってぐいぐい飲んでいると、口のなかが油っぽくなってくる。そこで、シャンパンの出番となる。爽やかな発泡が口のなかに広がり、油っぽさは洗い流される。すると、ふたたび鶏酒が食べたくなってくる。

 これは恐るべき永久機関だ。しかも、酒(日本酒)で酒(シャンパン)を飲むという、危険な和洋折衷。これで酒が回らないわけがない。

 永久機関はこれだけではない。魚卵にせよ、煮付けにせよ、塩ゆでしたアスパラガスにせよ、どうしても塩辛い。そこで、牡丹餅をつまむと、よい塩梅になる。そして甘いものを食べると、今度は辛いものが食べたくなってくる……というわけだ。

 箸はめぐり、盃は動く。たちまち2本目のスパークリングワインも開栓され、意識は遠のくのだった――。

 なるほど、皇后(昭憲皇太后)がこう詠んだのもわかる気がする。

「花の春紅葉の秋の盃もほどほどにこそ汲ままほしけれ」

毎晩はお薦めできないが……

 調味料などの情報が乏しかったので、今回の晩酌がどれくらい正確に再現できていたのかはわからない。ただ、全体的に味付けは濃かった。酒は進むが、毎晩これでは体調を崩しかねない。体が丈夫だった明治天皇も、糖尿病にかかるなどし、59歳で亡くなってしまった。

 とはいえ、鶏酒とシャンパンの組み合わせは悪くない。鶏酒は安く作れるし、シャンパンもスパークリングワインに代えればさほど懐も痛まない。明治150年の今年。退屈な式典よりもこれあるべしだ。飲める向きは、ぜひいちどお試しあれ。

明治神宮の葡萄酒樽

写真=辻田真佐憲

参考文献:
堀口修(監修・編集・解説) 『「明治天皇紀」談話記録集成 臨時帝室編修局史料』全9巻、ゆまに書房、2003年。

※引用にあたっては読みやすさを考え、漢字の字体やかなづかいを改め、適宜句読点や濁点を補うなどした。