パリ五輪・スポーツクライミング男子複合で銀メダルを獲得した安楽宙斗(あんらくそらと・17)。身長168cmながら両腕を広げると180cmという長いリーチをもち、各国の選手が苦戦する課題を次々と完登する姿は大きな話題を呼んだ。

 銀メダル獲得直後に2人の仲間が語ったこと、現役高校生の安楽が抱えていた“葛藤”とは? 2013年からスポーツクライミングの取材を続けるライターの津金壱郎氏が寄稿した。(#2を読む)

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 安楽宙斗が、パリ五輪のスポーツクライミング男子複合(ボルダー&リード)で銀メダルを獲得した。これがスポーツクライミング日本代表の男子にもたらした初めての五輪メダルだったが、安楽は成し遂げたことの大きさよりも眼前にぶら下がっていた金メダルを逃した悔しさを競技直後にこう吐露している。

「金(メダル)を狙って集中してこなしてきたんで……。うーん。いままで一生懸命やってきたので、とても悔しいです」

スポーツクライミング男子複合で銀メダルを獲得した安楽宙斗 ©時事通信社

 このコメントを聞きながら、私の中には悔しさとともに安堵する気持ちがほんの少しばかりあった。

進学校に通う高校3年生、“夏休み中”の五輪出場だった

 現在高校3年生の安楽にとって、パリ五輪への出場は“夏休み中”の出来事だった。進学校に通う彼の周囲はみな、すでに卒業後の進路を固めつつあるという。金メダル獲得に向けてクライミングにどっぷり向き合う一方で、振り子のように揺れ動く高校生の心境の一端を垣間見せることがあった。

 たとえば、今年の初めに話を聞いたときには「進路志望はそろそろ決めないといけないんですけど、まだ迷っていて」「オリンピックに向かって全力で集中したいのに、進路のことも考えなきゃいけない」と不安を吐露していた。

 そうした中、もし金メダルを獲得して張り詰めた糸が切れたら、安楽はスポーツクライミングから離れてしまうのでは――と心配していたのだ。

©JMPA

 しかし、それは杞憂だったと気づかせてくれたのは、ふたりのクライマーだった。小俣史温(おまたしおん・18)と通谷律(かよたにりつ・18)。安楽の銀メダル獲得が決まった後、私は彼らに話を聞いた。