連休を利用して、私は福井県鯖江市にある三床山(みとこやま)を訪ねていた。目指すのは石切場跡だ。石切場とは、土木や建築に使う石材を切り出している場所のことで、かつては日本中にたくさんあった。

 現在は閉業してしまったところも多いが、石を切り出した後に残る巨大な地下空間は見る者を圧倒するスケール感があり、観光資源として活用している事例もある。栃木県にある大谷石の石切場跡は“大谷資料館”として、数々のドラマや映画のロケ地にもなった。今や年間70万人以上が訪れる一大観光地となっている。

大谷石の石切場跡「大谷資料館」は年間70万人以上が訪れる観光名所だ

知られざる石切場へと…

 大谷資料館のようにライトアップされた壮大な地下空間ももちろん素敵だが、人がいない山の中にひっそりと佇んでいる石切場跡も、また魅力的だ。私はこれまで、群馬県や石川県、静岡県などにある石切場跡を何箇所か見てきたが、福井県の三床山にも石切場跡があるのだという。

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 まだ夏には早い時期に訪れたが、晴天に恵まれ、少し歩くと汗が噴き出す。車を置いて山に入るが、まずは熊野神社の境内を通ることになる。

 鳥居の手前には獣害対策のためのフェンスがあり、ゲートを自分で開けて通過する。その先には黒色のフレコンバックが並んでおり、これを乗り越える。

熊野神社入り口。境内を通って石切場を目指す

 さらにその先には電気柵があったため、接触しないように気を付けて慎重にジャンプした。参拝難易度が非常に高い神社だ。

熊野神社

 何とか神社にたどり着きお参りしたら、裏手から山に入る。この先は道らしい道がなく、どのように進めばいいのか分からなかった。ちょうどそれっぽいピンクテープを見つけたので、テープを頼りに山を登ることにしよう。

山に入ると、時おりピンク色のテープが木に巻きつけられているのを目にする。これは、地主や林業などの関係者が、道しるべや境界の目印として使用している

 道なき山を10分ほど登っていると、本当にこの先に石切場があったのかと不安になってくる。すると突然、目の前にトラックの廃車が現れた。全体が赤茶色に錆び、荷台には大きな木が倒れかかっている。運転席は風化が進み、原形を留めていない。人工物が自然と一体化したかのような風景に、しばし見とれる。

道なき道の先に突如現れた廃車状態のトラック

 トラックがあるということは、石切場が近いはずだ。