裁判所で「違法」の判決が滅多に出ないワケ
中村 憲法に違反していますよという判決は年間、そうそう出るものではないのですか。
松坂 滅多にありません。地裁レベルでも年間、一度も出ないということもあると思います。最高裁に限って言うと、先日、不妊手術を強制した旧優生保護法に対して憲法違反とする判断が下されましたが、それを含めても違憲判決が出た例は13件しかないんです。
中村 日本の歴史上、ということですか。
松坂 より正確に言うと、日本国憲法ができてからということですね。私も最初、こんなに少ないんだと思いました。最高裁は何を遠慮しているのだ、と。ただ、裁判所は違憲であることが明白でない限り違憲だとは言わないものなんです。そういうのを「司法消極主義」と呼ぶことがあります。
というのも最高裁が違憲と判断したら、翌日からその憲法に反する法律は使えなくなってしまうわけですよ。そうしたら、国が混乱するじゃないですか。たとえば自衛隊を違憲と判断したら、翌日から存在できないことになってしまいます。憲法は国の最高法規ですから。
中村 慎重にならざるを得ないわけですね。
世の中は同性婚を容認する方向で進んでいく
松坂 それと、国は争うとなったら、ものすごく強いんです。法務省に出向した裁判官、官僚、弁護士など優秀な人材を集めてチームを組み、膨大な量の証拠を準備します。国ですから、資料も山のように持っています。
中村 国と争うというのは、とてつもないことなんですね……。ちなみに同性婚訴訟は同時並行で、今、いくつも争われているんですよね。
松坂 札幌を含めると全国で6件起きています。札幌以外も現在は2審の審理中です。今後、各地の高等裁判所で判決を言い渡されることになっています。ここでそれぞれの高裁がどう判断するかですね。札幌の裁判は国も上告するでしょうから、最高裁までいくことになるでしょう。最高裁は他の2審の結果が出そろうのを待ってから、審理に入ることになると思います。議論が尽くされてからの方が正確なジャッジができますから。
中村 どういう判決が出ると思いますか。
松坂 現時点では五分五分だとしか言えませんね。裁判官も違憲というのは相当、勇気がいると思います。変に目立ったり、万が一、間違った判断を下したら出世に響くんじゃないかなとかもチラつくでしょうし。
中村 裁判官も人間なんですね。
松坂 その人間が判断することだから難しいし、怖いんです。裁判というのは。ただ、丸刈り裁判も一度も勝ったことがないのに世の中が変わったように、たとえ最高裁が違憲判決を出さなかったとしても、世の中は同性婚を容認する方向で進んでいくと思いますよ。
中村 夫婦別姓さえ認められていないのに、同性愛者の権利を尊重する方向に大きく舵を切ったわけですね。