なぜ、高校野球の世界では、「丸刈り」の強制がなくならないのか。どうして夏の甲子園は、酷暑のなかで何試合も行われるのか――。近年、世界的に人権意識が高まるなかで、高校野球の常識や慣習が議論の的になっている。
そんな高校野球界の常識・慣習について、「人権」をテーマに切り込んだのが、ノンフィクションライターの中村計氏だ。
中村氏は、丸刈りの強制は人権侵害に抵触するのか否かを中心に、元高校球児の弁護士・松坂典洋氏と対談。その内容を著書『高校野球と人権』(KADOKAWA)にまとめた。ここでは、同書より一部を抜粋・編集し、高校野球界の丸刈りの“変化”について、中村氏と松坂氏が対談した内容を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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「あと5年で坊主にしている方がおかしいという時代に…」
中村計(以下、中村) 全国の高校を対象に5年に1度、高校野球連盟が行っているアンケートで、2023年は「長髪やスポーツ刈を認めている」と答えた高校は約4分の3もあったんです。5年前は4分の1程度だったので、わずか5年でこんなに変わったのかと驚きました。
松坂典洋弁護士(以下、松坂) 驚きますよね。この前、地元の知り合いに聞いたら、現在、浜松市内に野球部のある高校は20校以上あるんですけど、そのうち今も丸刈りなのは数校程度しかないそうです。中には「ザ・高校野球」みたいなスタイルの高校もあったのですが、そういう高校までもが丸刈りではなくなったというのを聞いて、びっくりしました。時代の波はここまできているのか、と。
中村 大谷翔平の母校である花巻東の監督である佐々木洋さんは、2018年から丸刈りを廃止したんです。そのとき、まさに「あと5年で坊主にしている方がおかしいという時代になりますよ」と予言していたのですが、まさに今、そうなりつつあります。あともう5年したら、丸刈りに対する見方はどんな風になっているんでしょうね。
松坂 当然、変わっていると思います。極端な話、ひと昔前の入れ墨のようなイメージになっている可能性もあります。それこそ、ちょっと怖いなというか。世界の人権意識を反映して、それくらいのスピード感で日本人の人権意識も変化していますから。
つい先日、札幌高等裁判所で同性婚を認めないのは違憲とする判決が出たんです。つまり今の民法は憲法に違反している、と。同性婚訴訟に関して言うと、これまで1審の地裁レベルでは何度か違憲判決は出ていたんです。
ただ2審の高裁で出たのは今回が初めてだったんです。しかも、裁判所が原告側の主張をすべて認めて、現在の民法・戸籍法は、憲法14条1項と、24条1項及び2項に違反すると明確に判断したので、さらに驚きましたね。こんなに早く変わっていくのか、と。裁判所がここまではっきり違憲だと言い切るのはすごく珍しいんですよ。