なぜ、高校野球の世界では、「丸刈り」の強制がなくならないのか。どうして夏の甲子園は、酷暑のなかで何試合も行われるのか――。近年、世界的に人権意識が高まるなかで、高校野球の常識や慣習が議論の的になっている。

 そんな高校野球界の常識・慣習について、「人権」をテーマに切り込んだのが、ノンフィクションライターの中村計氏だ。

 中村氏は、丸刈りの強制は人権侵害に抵触するのか否かを中心に、元高校球児の弁護士・松坂典洋氏と対談。その内容を著書『高校野球と人権』(KADOKAWA)にまとめた。ここでは、同書より一部を抜粋・編集し、高校野球の“異常性”について、中村氏と松坂氏が対談した内容を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く

ADVERTISEMENT

写真はイメージ ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

◆◆◆

丸刈りはさらに丸刈りに

中村計(以下、中村) 確実に丸刈りの高校は減ってきました。ただ、一方で、不思議な現象も起きているんです。甲子園に出てくるような高校は相変わらず丸刈りの方が多いんですよ。

 アンケートが実施された2023年夏は、髪型は自由なんだろうなと思われる高校は49校中7校しかありませんでした。その夏、サラサラヘアで話題になった慶應が優勝したことで、これは甲子園組の髪型自由化も一気に進むかなと思ったのですが、2024年春、選抜大会において髪を普通に伸ばしているチームは32校中わずか4校しかなかったんです。

松坂典洋弁護士(以下、松坂) 割合的には夏よりも減っているんですね。

中村 しかも丸刈りのチームはさらに丸刈りになったと言いますか、大会前に五厘にして、大会中、また五厘にしたりしていたんです。だから、丸刈りがなくなる一方で、丸刈りのチームは極端な丸刈りになっているという印象を受けました。甲子園に出てくる選手たちって、こんなに青々としていたかな、と。

松坂 本当にみんながみんな五厘にしたいと思っているのでしょうか。チームのうちの何人かが過剰適応し、それが全体に広がったのかもしれませんね。

中村 過剰適応という言い方があるんですか。でも、まさにそんな表現がぴったりな感じなんですよ。