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暑い時間帯に何試合もするって、どう考えたって普通じゃない

松坂 軍隊などもそうだったと思うんです。過剰に適応しなければ、やっていられないというか。語弊があるかもしれませんが、太平洋戦争中の最前線は頭のネジを何本か外さないと正気を保つことができないような非常に過酷な世界だったと思うんですよ。ある意味で、軍隊教育とは強制を強制と感じさせないようなプログラム、異常を異常と感じさせないようなプログラムだったと思うんです。

中村 なんか似ていますよね。高校野球もいちいち疑問を抱いていたら、やっていられない気がします。夏の甲子園は特にそうですが、こんなに暑い季節に、こんなに暑いエリアで、こんなに暑い時間帯に何試合もするって、どう考えたって普通じゃないですよ。

 しかも甲子園も地方大会もトーナメントなので一回負けたら終わりです。秋の大会が終わってから9ヶ月前後、選手たちは夏のために厳しい練習に耐えるわけです。それがたった1試合で終わる可能性もある。地方大会から甲子園まで奇跡的に勝ち続けて優勝を手にしたからといって、金一封が手に入るわけでもありません。いったん冷静になってしまったら二度と入っていけなくなってしまう世界なんじゃないかなという気がしてしまいます。

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©文藝春秋

松坂 逆に言うと、その異常性が甲子園の魔力であり、魅力でもあるんでしょうね。 

中村 まさにそうなんです。過剰に適応しているからこそ、取材対象としては魅力的でもある。だから、そこは取材者として完全に矛盾しているんですよね。おかしいなと思いつつ、おかしいからいいんじゃないかと思っているところがあります。真っ当な世界の真っ当な人を書いたところで、おもしろくもなんともないだろう、と。