夫は何度か期日を経ても、A子さんを責める主張ばかりを繰り返していましたが、調停委員に「あなたが言うようなひどい女性なら離婚した方がいいんじゃないですか」と言われると、振り上げた拳の持って行き場がなくなったのか、離婚に応じると言いました。財産分与の取り決めも行い、離婚が決まりました。
こうしてA子さんは離婚できました。
「妻に働いてほしくない」理由
近年は、結婚や出産を経ても仕事を続ける女性が増えていますが、「夫に働くのを禁止されている」「働きたいと言ったら怒鳴られるようになった」という相談は今も根強くあります。
夫の言動を見て、こんな人が今の時代にも本当にいるのかと思う方も多いと思いますが、まだ若い30代の男性でも、こういうことを言うケースは少なくありません。
理由としてはいろいろなものが考えられます。
女性も働くべきだと一般論では思っていても、自分の妻に対しては家にいてほしい、自由にさせたくないと強く思ってしまう束縛型の人。
共働きは自分の収入が不十分だと周囲に思われて体面が悪いと感じてしまう、メンツを重視するタイプ。
もしくは、そもそも「女性も働くべき」という風潮に普段から反発を感じていた人なのかもしれません。
このようにいろいろなタイプの人がいますが、妻が外に世界を持つことが理解できない、許せないという点が共通していると言えるでしょう。
厳しく束縛することは愛情ではありません。束縛や監視の根底にあるのは、「少しでも自由にさせたら裏切るに決まっている」という疑いの気持ちです。束縛しても信頼は生まれないので、その状態が続いても、束縛されている側はもちろん、束縛している側の気持ちも晴れることはありません。
A子さんの夫の場合、結婚前にあらかじめ専業主婦になることという条件をはっきり言っていました。
結婚の条件というのは、心情としてはとても重みがあるものです。このような条件を告げられた場合、軽くとらえてしまわず、相手がなぜそう思うのか、その条件はずっと守る必要があるものなのかをきちんと話し合うようにしましょう。そうすれば、その裏にある気持ちがどういうものなのか、お互いに向き合って、歩み寄るか離れるかを選択することができるようになります。
弁護士
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。