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『闇をわたる』は、一軒のラーメン店から始めて一大企業グループを作り上げた梅島満が収集していた稀覯本と時計の盗難と、総務省審議官の長男・竹本幸樹による強盗というふたつの事件が軸となる。成り上がりの辣腕経営者と、“上級国民”といわれる官僚の息子の不祥事。関係がないと思われたふたつの事件を追う警視庁特別対策捜査官・二階堂悠真はさらなる事件に巻き込まれ――というストーリー。

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主人公がふわっとしたセレブ刑事になったわけ

 谷山 朗読し終えて、これはまだまだ続いていくシリーズの、あくまで第一歩だなと思いました。登場人物が多いし、主人公の二階堂悠真と、彼が今後ビジネスパートナーにしたいと目論んでいる警務課の和久井友香が話の中心になるんでしょうけど、全編読み終わった僕自身も、二階堂のキャラクターがまだつかみきれていなくて。これから堂場さんの筆で整って、定まっていくのかな、と。

 堂場 谷山さんに読まれちゃってるな。実は二階堂のキャラクターはあまり定めてないです。

 谷山 やはり! 308ページあったのに、二階堂にふわっとした印象があって。

 堂場 昔は結構ガチガチにキャラクターを固めて、シリーズ1発目から強烈にこの人はこういうキャラって出してたんですけど、最近はあんまり気にしないで、物語がするっとふわふわ変わっていく、みたいな感じにすることが多いですね。

 昔はね、刑事は「信念の人」じゃないと駄目だと思って書いてたんですよ。でもそんな人間はあんまりいなくて、みんなふわふわ生きてるんですよね。刑事だって壁にぶつかって、修正して、あっち行って、また変わる。二階堂風にいえば、「人間ってそんなものじゃないですか」と。

 谷山 現代にこの主人公像というのは共感しやすいかもしれません。セレブ担当刑事って新しいけど、意外とふわっとしてるんだとか、女性に対して意外とうまくいかないもんなんだなとかね。「信念の人」じゃないのが一つのポイントかもしれないですよね。

 

谷山さんの声でキャラクターの解像度が上がる

 堂場 この間収録を聞かせていただいたときに、谷山さんが二階堂をわりあい高い声で演じてるなと思って「そうだそうだ、こいつこういう声だ」と納得したんです。人に演じてもらって初めて、「ああ、こういう人だったんだな」って。今後は谷山さんの声のイメージで進むと思います。

 谷山 それはナレーター冥利に尽きますね。

 堂場 僕はあまり映像や音にした時のイメージで書いていないので、映像になった時や今回のAudibleで聞かせていただいて、納得するところがありました。

 谷山 物語がすごく面白かったし、畑違いの僕が言うことじゃないですが、文章が、非常に読みやすくて。だから朗読としても非常にやりやすかった。ただ、人物が多かったのは苦戦しましたけどね。

 特に女性のキャラクター。別にそこまでそれぞれ精緻に演じ分けしなくてもいいんだけど、やっぱり自分の芯は役者だから、どうしても各キャラクターに色を付けたくなるんですよ。「あれ、このキャラ、また出てきたけど、どんな声色で喋ってたっけ?」って気になってしまって。この点が今回手こずった部分ではあったんですけど。

むずかしい「会話のリアル」

 堂場 書いているときは、キャラクターごとに喋り方の癖をつけようかなと思ったんですよ。でも音として聞いたときにそれをやると、わざとらしく聞こえるんですよね。

 小説の文章って「と、誰々は言った」って書いてあるじゃないですか。それで全部わかっちゃうわけです。さらに物語の中で登場人物の口癖が続くと鬱陶しいというのがあってやめました。結果的に正解だったと思います。

 谷山 リアルな会話って、本当は驚くぐらいざっくばらんだったり、乱暴なことば遣いをしたりするじゃないですか。ところが小説にした場合、どこまでそのリアルを反映するのか、それともわかりやすく整理するのかという問題があるんだろうなといつも感じています。僕は物書きじゃないのでわからないですけど、作家の苦悩って特にセリフにあるんじゃないかな、とか。

 堂場 いつもリアルな会話を目で読んでもわかりやすくする作業をしているわけですが、オーディオブックにすると二重にひねる感じになるのかな。リアルな会話から文章として整っている会話へ、谷山さんによってもう一度リアリティのある会話になる感じで。でもオーディオブックなら話し言葉で書かれていたほうが、聴いている人にはわかりやすいはずなんですよね。

 谷山 そうですね。

 堂場 それだと小説が読みにくくなるので、どうしようかと思ったけど、結局僕はいつもどおり、文章としての会話として書きました。