アマゾンのオーディオブック「オーディブル(Audible)」からオーディオファースト作品として発表された、堂場瞬一さんの新作書き下ろし長編『闇をわたる ~警視庁特別対策捜査官』。オーディオファーストとは、オーディオブックとして音声で配信した後、書籍として出版されるプロジェクト。Audibleと文藝春秋の共同企画で、ナレーターは人気声優・谷山紀章さんが務めています。
最初から耳で聞くことを想定して小説を書くことは堂場さんにとって初めての試み。また、谷山紀章さんにとっても300ページ超の小説をひとりで演じるのは初めてということで、収録後おふたりに『闇をわたる』について語っていただきました。(撮影=末永裕樹)
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このプロジェクトのオファーは即決でした(堂場)
堂場 基本的に、面白そうなことや初めてのことは受けるようにしているので、このオファーがあった時、すぐ引き受けることを決めました。執筆にあたっては、オーディオファーストということを意識し過ぎないように、「新シリーズのひとつが始まるな」という気持ちで、いつもの執筆と同じように、普通に書きました。出来上がってみたら結構おもしろかったです。と自分で思ってます。
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本作品の主人公は、いわゆるセレブたちが犯罪被害に遭ったとき、窓口となって各警察署との架け橋になる「警視庁特別対策捜査官」の二階堂悠真。セレブと犯罪がテーマになっている。
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堂場 2019年に東京・池袋で起きた乗用車暴走事故などを機にインターネット上で広まった“上級国民”――その政治力や財力を利用して罪や責任を逃れることが可能とされている富裕層や上流階級、要職に就いている者たちを指す言葉ですが、その“上級国民”という言い方を聞いたとき、いま社会が本当に分断されているのか、されていないのかと考えて、そういう状況をどうやって作品の中に落とし込むかということをずっと考えていました。よく上級国民は処罰されないみたいなことをいう方もいますけど、逆に上級国民だから巻きこまれる犯罪もあるわけで、これはいろいろ書けるぞと。ずっともやもやと頭の中で転がしていたんです。
谷山紀章さんが子ども時代に読んでいたもの
谷山 みなさんから、自分は読書家って言っていただけるんですが、本当にもうやめてくださいという気持ちで(笑)。僕はただ本がある空間が好きなだけで、読書家って一言も自分で言ったことないんです。周りが面白がってくださっていて、そういうふうな目で見られるようになりましたが。でもそのおかげでこのご縁があったのは嬉しいなと思います。
これまで実は警察小説は積極的には読んでいませんでしたが、話題になった『ストロベリーナイト』とか『半落ち』とかは読んでました。それと小さい頃はいわゆる推理小説をよく読んでましたね。学校の図書館に、小学生向けに読みやすく翻訳されているエラリー・クイーン、ヴァン・ダイン、コナン・ドイルなどが置いてあって、当時はそういうのを読むのが流行ってたこともあってよく借りて読んでいました。江戸川乱歩とかも。
僕はちょっと斜めに構えた子だったからか、みんながホームズを面白いって言っている時に、ダシール・ハメットの『マルタの鷹』とか、ああいうのを読んでました。小学生の頃から。
堂場 それはかなり変な子どもだと思うよ(笑)。
谷山 サム・スペードのダンディーさとか全然わからないのに(笑)。
堂場 警察小説というのは、日本では比較的新しいジャンルなんですよね。海外では昔からいっぱいありましたけど、自分が学生の頃、国内の人が書いている警察小説はあまりなかった。
谷山 今回このお仕事のご縁をいただいて、改めていまの日本の警察小説って面白いなぁと思いました。