作家が役者として舞台に立つ「文士劇」。明治期に尾崎紅葉らが始めたとされ、菊池寛の提案で始まった文春文士劇は、三島由紀夫や石原慎太郎、有吉佐和子ら流行作家が出演し人気を博した。現在でも、盛岡文士劇が回を重ねている。
そしてこの度、関西・九州在住の作家を中心に「なにげに文士劇」が旗揚げされた。朝井まかてさんの一言がこのプロジェクトの始まりだった。
「きっかけは、葉室麟さんのお墓参りでした。澤田瞳子さんと東山彰良さん、髙樹のぶ子さんと、九州にある葉室さんのお墓にお参りに行き、その後に皆でお茶したんですね。私にとっては作家4人でお茶を飲むというのも非日常で、物書き同士の慕わしさもあって、ふと『文士劇やりたいなあ』と呟いたら、髙樹さんが『昔は盛んだったわね』と仰って。それで、やろうということになったんです」
銘々が声をかけるとすぐに出演者も集まった。先ほどの4名に加え、一穂ミチさん、上田秀人さん、門井慶喜さん、木下昌輝さん、黒川雅子さん(画家)、蝉谷めぐ実さん、玉岡かおるさん、湊かなえさん、矢野隆さんら錚々たる顔ぶれが揃い、黒川博行さんが実行委員長に就任した。
上演するのは東野圭吾さんのデビュー作『放課後』。高校で見つかった教師の死体、続々と現れる犯人候補。謎が二転三転する学園ミステリーだ。
「文士劇は、作家が役に扮して舞台に登場するだけで観客に楽しんでもらえる時代劇が受けやすいのですが、衣装や小道具にお金がかかる。だったら学園ものにして、セーラー服や学ラン姿で出たら面白いだろう、と。そこで黒川さんが、ほな、『放課後』がええな、おれ、東野に頼んでみるわと、すぐに許可をとってくださったんです。黒川さんと東野さんは共に文士劇に出演された経験がおありで、パロディ化もOKと仰ってくださいました」
演出・脚本や製作陣には演劇のプロが集まったが、主催は実行委員会だ。裏方仕事も自分たちでやる手作りなので、慣れないことだらけだった。
「もう本当に山あり谷ありで、谷底にも突き落とされました(笑)。公的資金の助成も申し込みましたが却下され、それで、クラウドファンディングで広くご支援をお願いすることにしたんです。返礼品のアイデアから発注も自分たちでやり、絶賛制作中のパンフレットもかなり充実したものになりそうです。文化祭の準備をしていた高校生の頃をふと思い出しますね」
先日、初の読み合わせが行われたというが、
「想像以上にみんな役者でした。台詞のバックボーンを読み取り、それぞれのアプローチで役に入りつつあって、まさに文士ならではの芝居になりそうです。やりたいと言い出してからかれこれ1年半、1つの大きな物語の中を歩いて来たような気持ちです」
今回の公演は1回きりだが、できれば数年に一度でも続けていきたいと語る。
「もともと小説と戯曲って、もっと近いものだったと思うんです。江戸の戯作は歌舞伎や浄瑠璃と同じ種を共有していましたし、自分の中に、何となく芝居に対する欲求はあったのかなという気がします。一方で、普段小説を書くときは監督や演出、美術などをすべて1人でやっているようなもの。それを今回は、皆で集まって1つのものを作り上げる。芝居だからこそできることもあるはずなので、舞台のリアルな時間・空間を観客の皆さんと共有できることを楽しみにしています」
あさいまかて/1959年、大阪府生まれ。2008年、小説現代長編新人賞奨励賞を受賞しデビュー。14年『恋歌』で直木賞、『阿蘭陀西鶴』で織田作之助賞、15年『すかたん』で大阪ほんま本大賞、16年『眩』で中山義秀文学賞、17年『福袋』で舟橋聖一文学賞、18年『雲上雲下』で中央公論文芸賞、『悪玉伝』で司馬遼太郎賞、20年『グッドバイ』で親鸞賞、21年『類』で芸術選奨文部科学大臣賞と柴田錬三郎賞を受賞。
INFORMATIONアイコン
なにげに文士劇2024 旗揚げ公演『放課後』(11月16日)
大阪・サンケイホールブリーゼ チケット申込の詳細はこちら(チケットの一般販売は9月1日12時~)
「なにげに文士劇」公式HP https://nanigeni-bunshigeki.com
クラウドファンディングはこちらから(募集は9月13日23時まで)