現在94歳。ドキュメンタリー界の巨匠の好奇心と行動力はまったく衰えていない。『パリ・オペラ座のすべて』、『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』など、アメリカからヨーロッパまで様々な場所や組織にカメラを向け、数々の傑作ドキュメンタリーを手掛けてきたフレデリック・ワイズマン監督。

 新作『至福のレストラン 三つ星トロワグロ』で彼がカメラを向けたのは、フランス中部にある三つ星レストラン〈トロワグロ〉。4世代に渡り家族経営を続け、55年間星を維持してきたこのレストランは、世界中から美食家たちが通う名店。240分という長大な時間のなかで、人々を魅了する美しく荘厳な料理が次々に映され、それを作りあげる人々の仕事、そして店に通う常連客たちとの交流が描かれる。

フレデリック・ワイズマン監督 © 2023 3 Star LLC. All rights reserved.

美味しい料理が作られている場所と、それを作っている人たちに興味があった 

――ワイズマン監督は以前から、レストランを撮影することに興味があったそうですね。レストランという場所のどのようなところに惹かれたのですか?

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ワイズマン 私はずっと前からグルメでしたから、美味しい料理が作られている場所と、それを作っている人たちに興味があったんです。

――今回の撮影対象になったトロワグロは、以前からよく知っていたレストランだったのでしょうか?

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ワイズマン いえ、行ったことはもちろん、名前を聞いたこともありませんでした。2020年の夏、ブルゴーニュの友人夫妻に招待され1ヵ月をその地で過ごした際、お礼に近くのレストランに招待したいなと思い、ミシュランガイドに載っていたトロワグロにランチを食べに行ったのが始まりでした。料理を楽しみ、デザートを食べ終わる頃、4代目シェフオーナーのセザールが挨拶にテーブルまで来てくれました。そこで私は衝動的に「ここを撮影してもいいだろうか?」と聞いたんです。セザールは「父と話してきます」と答え、30分後に戻ってきて「いいですよ」と言ってくれました。後で知ったのですが、セザールと父親のミッシェルはその30分間、Wikipediaで私のことを調べていたようです(笑)。