――本作では、レストランの中の仕事だけでなく、市場や農場、チーズ工場など、レストランを成り立たせる生産システム全体が映されます。当初から、レストラン以外の場所も映そうと決めていたのでしょうか?

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ワイズマン いえ、最初からではありません。撮影している途中で、こうした生産システムの存在に気づいていきました。私たちは撮影を通してミッシェルたちとどんどん仲良くなっていったので、自然と向こうから、「明日農家に行くから一緒に来ないか」「これからワイン畑に行くよ」と誘ってくれるようになった。そうして、彼らが有機栽培を始めとする多様な生産形態に興味を持っていて、食の生産者を支えていきたいと考えていること、また環境にも強い関心を持っていることがわかってきたんです。この映画は2年前に撮影をしたんですが、撮影中に生まれたミッシェルたちとの友情は、今も変わらず続いています。 

人はみな、自分のことしか演じられない

――料理が完成したあと、フロアで、シェフのミッシェルさんがお客さんを相手にいつも見事な話を披露する様が印象的でした。彼は料理の内容やレストランの歴史について、まるで舞台俳優のように滔々とスピーチをします。カメラがあったことで、彼の話しぶりがより劇的なものになった、という可能性はありますか?

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ワイズマン カメラは全く関係なかったはずです。私が最初にトロワグロにランチを食べにいったときにも、セザールが、レストランのこれまでの歩みや料理について丁寧に説明をしてくれました。三つ星レストランの大事な要素の一つは、ホストがゲストに対してしっかりとコミュニケーションをとることにある。シェフが各テーブルについて説明する時間もコミュニケーションの一部なのでしょう。ミッシェルは、客と話をすることで自分の料理を食べる相手が何を考えているかわかるし、会話から学ぶことはとても多いと言っていました。

 たとえば私がいま、あなたを喜ばせるために調子のいいことを言ったら、すぐに「これは取材のためのリップサービスだな」とわかるでしょう? もし撮影中、ミッシェルやセザールが私たちの映画のためにそういうことをしていたら、私はその場で気づいていたはずです。人はみな、自分のことしか演じられないものだと私は考えています。人はそんなに演技がうまくはない。たとえ他の誰かを演じようとしても、周りにはすぐに嘘だとわかってしまうものです。

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――ワイズマン監督の映画を見ていると、いろんな人が流暢に話し続けている姿が映されていて、人はカメラの前でこんなにもたくさん喋るのかと驚かされるんです。

ワイズマン まあ、人がたくさん話しているところを中心に選んで繋いでいますからね。人が話しているほうが、映画を作るうえでは都合がいいんですよ。