撮影の許可が下りたあと、ミッシェルたちとやりとりを続けていたんですが、当時はまだ新型コロナウィルスのパンデミックが広がっていた時期だったので、撮影を始めるのはしばらく待つことにしました。人々がみんなマスクをしている姿は撮りたくなかったので。そしてパンデミックが多少落ち着いてきた2022年の4月から7週間をかけて撮影しました。

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撮影はスポーツみたいなものでとても疲れる  

――編集作業にはどのくらいの時間がかかったのでしょうか? ワイズマン監督は、いつも編集に長い時間をかけるとうかがっています。

ワイズマン 編集にかかった時間は7、8ヵ月くらいでしょうか。撮影した素材は全部で140時間。すべてを吟味するにはそれだけの時間がかかるんです。編集の詳しい過程を聞きたいですか?

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――ぜひ聞きたいです。

ワイズマン OK。一番初めにするのは、140時間分のラッシュ(未編集の撮影素材)を全部見ることですが、それにだいたい6週間がかかります。使わない箇所を振り落としていって、ラッシュを半分くらいに減らしたら、残った半分の中から場面ごとに使うべき部分を繋いで最終的な形に近いものにしていきます。そうして、たとえば食事をしながら客が喋っている場面で、40分くらいあるのを5分くらいに減らすにはどうしたらいいのかを考えます。

 いつも念頭に置いているのは、見ている観客がその場面を理解できるかどうか。そのために何を残すべきかを決めていくのです。

 使う素材を決め、すべての場面の編集をした後、初めて映画全体の構造を考え始めます。全体の構造を決めるまで、たいてい6週間はかかる。それからさらに2週間をかけて、最終的な構造に辿りつきます。こうした作業を続けている間中、私はいつも、それぞれの場面がどういう意味を持つのか、そこで何が起きているのかを考えます。同時に、各シーンが繋げられることで、どういう意味が生まれてくるか、観客がしっかり理解できるものになっているかを考えるようにしています。どうしてこのシーンが最初で、これが最後に来るのか。その構造と繋げ方の意味を、自分で自分に説明できるようにしなければいけないのです。

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 こうしてすべての編集が終わったあと、もう一度140時間のラッシュを全部見直します。自分が捨てた物のなかに、編集によって新たに必要性が出てきた箇所はなかったかどうかを確かめるのです。たいていの場合、やり直すのはあるカットと次のカットの繋げ方の部分ですが、ときには、自分が捨てた物の中から「ここは使ったほうがいい」と思える重要なカットが出てくることもあります。その作業が終われば、この作品についてはすべて終わり。じゃあ次は何を撮ろうかと考えます。