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痛み止めを打って、右ひじの痛みはかった

 右ひじの状態を考慮し、シングルスに絞って、ダブルスを回避することは選択肢になかったのか。国枝は、ジェラールと戦った日の前日、ダブルスの試合にも出場していた。

「そこに関しては全然悔いがないです。まだ残ってるんで、逆にダブルスにかけなきゃいけない、と思っている。体力的には昨夜、ダブルスの試合があってタフでしたけど、今日コートに入ってみればけっこう元気でしたし、回復してきたな、という感じだったので、そこは何の言い訳もないです」

 元々、負けたときに言い訳をする人ではない。そもそも、負ける頻度が極めて低い「絶対王者」であり続けた。

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 ただ、リオでの敗戦は、潔すぎるようにも思えた。

©文藝春秋

「今でも頭に来ます」素の国枝慎吾がのぞいた独白

 引退後、改めて聞くと、裏話が満載だった。

――リオパラでジェラールに負けた準々決勝の後、右ひじの痛みの影響はなかったと強硬に否定していましたが、言い訳が嫌だったからですか?

「リオでは痛み止めの注射を打っていたので実際、痛くなかったんですよ。そこからほんと2カ月半ぐらい痛くなかった。すげえな、注射って。だから痛みはないのは本当なんですけれど、とにかく仕上がっていなかった」

 その後、国枝は「ただ、言い訳は1つありますけど……」と言葉を継いだ。

 ここから、独白が始まった。ふだんの報道陣に対して発する礼儀正しい日本語ではなく、ぶっちゃけトークが全開になった。

「時間です。覚えてます? ダブルスが前の日、深夜零時半ごろまでやっていたんです。そして、翌日のシングルスが第1試合ですよ。あり得ないと思いましたね、クソッと思いましたね。あれ、まじで頭に来て、今でも頭に来ますよ。あり得ないっす」

 怒りが改めてこみ上げてきたのだろう。恨み節が止まらない。

「だって、選手村に帰ったのが午前2時とかで、次の日、午前10時に試合します? しかも、試合前の練習時間を予約しようと思っても、ジェラールが取ってるから、取れないと言われて。ほかの時間を頼んだら、ここは表彰式のリハーサルがあるからダメ、と言われて、たしか午前8時にウォームアップをすることに。あれは今でも頭に来てるな。あれはないなあ。超怒ったなあ。現地にいた日本の車いすテニス協会の人にも、超怒ったなあ。なんでスケジュールが出たときに交渉してくれないんだ。あり得ないわって」

 素の国枝慎吾がのぞいた。怒りながらも、笑顔で振り返れるところが、この人の度量の大きさだ。