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ワインを飲ませて酔わせ、手込め同然にして抱いた

 花形は、手のつけられない暴れ者であったが、男でも女でも、品のない粗野な人間は嫌いであった。

 花形には、強い誇りがあった。

〈おれの体の中には、旧家の血が流れている〉

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 花形一族は、武田24将の1人の血を引いていた。敬の母親の美以も、長州萩の旧士族の娘であった。

 花形が安藤に惚れ込んだのは、安藤の中に、まわりの粗野な愚連隊たちとはひと味ちがう雅(みやび)さを感じ取ったからである。

 花形は、千鶴子にも、まわりのズベ公にはない品の良さを感じ取り、ひと目惚れしてしまっていた。

 花形が彼女と知り合ったときには、彼女にはすでに恋人がいた。が、花形は、彼女を強引にダンスパーティーに誘った。ワインを飲ませて酔わせ、手込め同然にして抱いた。

 千鶴子も花形に惚れ込み、2人は渋谷で同棲を始めた。

 やがて女の子ができ、花形は彼女を入籍した。花形19歳、彼女が18歳のときであった。

写真はイメージ ©アフロ

くるみのナンバー1にのし上がっていた。

『くるみ』のママは、三崎の愛人で、関東女学院時代、千鶴子の一級上であった。その縁で千鶴子もくるみに勤め始めた。

 千鶴子は、持前の美貌で、くるみのナンバー1にのし上がっていた。

 千鶴子といっしょにやって来た女性は、石井の彼女であった。

 彼女は、顔立ちは、千鶴子以上の美しさであった。が、千鶴子を抜いてナンバー1にはなれなかった。会話をしていても、突拍子もないことを言い始める。店の客たちも、一瞬キョトンとすることがあった。頭が少し弱かったが、その分、性格はよかった。

暴れ者であったが…

 石井は、学生時代から暴れ者であったが、女には初心(うぶ)であった。女の前に行くと、どうしようもなく恥ずかしくなり、まともに口もきけなくなる。

 まわりの不良仲間が、不思議がるほどであった。

「おい石井、どうしたんだよ、急に……」

『くるみ』が開店したときには、石井は安藤から任されていた藤松旅館を出ていた。

 千鶴子と石井の彼女がそろって来たのは、花形と石井に「帰ろう」と迎えに来たのであった。

 ところが、この2人の女性が逮捕されるというとんでもない事件が起こる……。