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――ちょっと踏み込んだ質問をすれば、作中、カナが苛立って、ハヤシに「映画なんか観てなにになんだよ」と言うシーンがありました。同世代として(取材記者も20代半ば)、いくつも頷いてしまうようなポイントがある映画だったのですが、このセリフはとても本質的だと思いました。実際、同世代にも、映画館に行くことがなければ、ほとんど映画を観ないという人も少なくなくて……。

©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会 配給:ハピネットファントム・スタジオ

山中 そうですね。映画館に来て、座って、上映が始まってしまえば、それこそ「自分たちの話だ」と興味を持っていただけるぐらい力のある作品を作ったという自負はあるんですけど、やっぱり来てもらうまでがすごい大変で……。

 そういえば、以前に取材してくださった方に「この映画は、裏・『花束みたいな恋をした』みたいですね」と言われたことがあって、たしかにそうかも! と思いました。その人いわく「同じように現代を生きる若者の姿を捉えた作品でも、『花束みたいな恋をした』の主人公は、生きるうえで映画、小説や漫画などのカルチャーを必要としていた。『ナミビアの砂漠』の主人公はまったくそうじゃない。どちらの若者像もリアリティがあるし、表裏みたいだなと思いました」。『花束みたいな恋をした』は、もしかしたら普段は映画館に行かないような人も観に行った作品だったんじゃないかと思いますが、この映画もそれぐらいヒットしてほしいなあと思います。

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撮影場所の変更、現場近くで火事…いくつもの偶然が重なった

――現場でのことや、キャストのみなさんについても聞かせてください。昨年9月末から2週間ほど東京近郊で撮られたとのことですが、撮影のなかで脚本を書き換えられたりもしたそうですね。

山中 河合さん、金子さんも寛一郎さんもそうですが、脇を固めてくれた役者含めてみんなの演技が本当によくて。それぞれが考えて持ち寄ってきてくれたキャラクター像が伝わってきたし、脚本で書かれている以上のものを出してくれました。準備稿で納得いっていなかった部分はもちろん、みんなの演技に見合うようにもっといいシーンを考えたりもしました。自分だけで考えるよりずっと豊かでした。

 役者の力の話で言えば、例えば、冒頭の河合さんがただ歩いてくるシーン。脚本では「歩いている」としか書いてないわけですが、それが河合さんの歩き方一つで「はっ……」と見入ってしまったり。なんだかすごいスリリングだったんです。映画では次に喫茶店のシーンに移るんですけど、その場面を撮っているときから「これはとんでもないかも」って気持ちがありました。