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 それに撮影中、出来すぎなことがたくさん起きたんです。例えば、カナが働く脱毛サロンの最初に用意していたロケ地が、撮影開始2日前に急に使えないと言われちゃって。脱毛サロンがマイナスなイメージで登場することもあって、なかなか貸してもらえず、やっと見つけたところだったんです。でも、やっぱりごめんなさいと。最終的に脱毛メインではなく、いろいろな美容系の施術を行っているところを貸してもらえることになったんですけど、そこはロビーに大きな柱をぐるっと囲うようにパキッとしたオレンジのソファーが並んでいたり、施術室の緑の壁の色味だったり、SF感というか人工的な感じがあった。結果的にここで撮ることができてベストだったなと。

 映画の最後のシーンも、撮影しているときに現場の近くで火事が起きていたんですね。火元から100メートルぐらいは離れていて、距離はあったんですが……。カナとハヤシが向き合うなか、いつもと違う感じがするなと思ったら、うっすらと煙が充満していた。それで雰囲気もちょっと変わって、懐かしい感じというか、泣いてしまうような感じがあって。

――すごい偶然ですね!

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山中 はい。最初は困ってしまうようなことも、最後は思いがけない良い方向に転じて。そんなふうに、演技もいいし偶然は重なるしで、撮影中からみんなのなかで「なんかこの映画、すごくない?」ってムードはありました。河合さんも「ぜんぶ面白いし、楽しいけど、これでいいのかな……」とこぼしたり。映画って、すべてのシーンが面白いからといって、そのまま面白い作品であるというわけではないじゃないですか。本当にあらゆるシーンが充実していたので、逆に不安になるというか。私もそうだったんですけど、編集中にこれは素晴らしい作品だと確信が持てた。もう一度作れと言われても、できないと思います。

©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会 配給:ハピネットファントム・スタジオ

「映画を作っていて純粋に楽しくて、これでいいのかもと思えた」

――監督にとって今回の制作はどのような経験になりましたか。

山中 いま日本も、世界も混乱しているというか、こんなときに映画を撮っていてもしょうがないよな、みたいなことはけっこう思っていたんです。やりたいことがあって、それをやり続けられているって、恵まれていて、特に私はそうだと思うし、そこには自覚的でありたいんですけど……。

 これまで私が映画作りをするうえでのベースって「苦しい」だったんです。コミュニケーションを取らないといけない人が多いし、マルチタスクだし、向いてないんじゃないかって。そうやって問題を一人で抱えるタイプだったんですが、今回はそれをやめたんです。不安を共有したり、物事を委ねるようになった。そしたら、いいことしかなかった。映画を作っていて純粋に楽しくて、これでいいのかもと思えた。これからどれだけ映画を作れるかわからないんですけど、振り返ったときに「あれがあったから」と背中を押してもらえるような、そんな転換期になったかなと感じています。

やまなかようこ/1997年生まれ、長野県出身。日本大学芸術学部中退。独学で制作した初監督作品『あみこ』がPFFアワード2017に入選、翌年、20歳で第68回ベルリン国際映画祭に史上最年少で招待される。本格的な長編第1作となる本作『ナミビアの砂漠』は第77回カンヌ国際映画祭の監督週間に出品され、女性監督として史上最年少となる国際映画批評家連盟賞を受賞した。

 9月6日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー