たけださてつ/1982年、東京都生まれ。大学卒業後、出版社で主にノンフィクション本の編集に携わり、2014年からフリーに。15年、初の著書『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。「cakes」「文學界」などで連載。

「ナンシー関さんがとにかく好きで長年読んできたのですが、亡くなられてから15年近く経ち、当時と芸能人の語られ方が随分変わってきたと思う。今は芸能ネタのスパンが非常に短く、その中身も業界の内情やその人の履歴を徹底的に調べるアプローチが多い。だけどナンシーさんはテレビの前で感じたことのみを率直に記していた。自分も情報量に頼るのではなくテレビの中の世界と距離をとりながら、芸能人が映し出す社会を含めて書きたかった」

 昨年、デビュー作『紋切型社会』がドゥマゴ文学賞を受賞した新進気鋭の書き手、武田砂鉄さんが新著『芸能人寛容論』を上梓した。

 EXILE、紗栄子、堀北真希、吉田羊、星野源といった芸能人が映し出す世相の本質を新しい世代の感性で鋭利に斬る。

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「冒頭でEXILEを取り上げましたが、好きじゃないからこそ寛容にじっくり考えてみたかった(笑)。いわゆるポップスターは本来もっとイジられるべき存在だと思うんですが、今って、ファンは外からの発言に不寛容だし、ファン以外はその対象についてさほど考えてみることをしない。マツコ・デラックスや坂上忍、有吉弘行のような毒舌と呼ばれる人たちが人気を博しているのは、本来、視聴者が外からの目線で行うべき突っ込みを彼らが代わりにやっているから。番組内で毒が完結してしまっているんです。僕らはテレビの外から、もっと主体的に突っ込んでいいと思う」

 本書では、例えばCMに蔓延する「石原さとみの唇」が俎上にのぼる。いつから女性の化粧は唇がポイントだと、世間一般に思われるようになったのだろう?

「唇は肉厚なのがセクシーとかアヒル口がかわいいみたいなことは、たいていがプロジェクト発信。でもそこで背後に広告代理店が絡んでいるみたいなことを言っても仕方ない。彼女のCMがどことなくAVちっくであることや、存在自体がサブリミナル化していることから論じたほうが本質に迫れる。テレビに操縦されてしまっている私たちの無意識をねちねちとあぶり出したかった」

“紋切り型”の芸能人評や社会考察とは無縁のコラムは、じつに挑発的だ。

「今の社会は物事を賛成反対で区分けしたがり、その中間のグラデーションを見ようとしない。でも二分法の思考だと、小学生ならすぐ気づくような道端の軍手を見落としてしまう。そのへんに落っこちている軍手こそ僕は拾いたい」

「紗栄子が生き急いでいる」「水原希子は巨大仏である」「堀北真希の国語力に圧倒されたよ」「前園真聖の話術が阿川佐和子に近づいていく」「なぜ小堺一機は語られないのか」等々、思わぬ視点から芸能人の生態を解体し、テレビの中のわだかまりを解きほぐす。「cakes」の人気連載「ワダアキ考」がついに書籍化。

芸能人寛容論: テレビの中のわだかまり

武田 砂鉄(著)

青弓社
2016年8月15日 発売

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