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 容疑者の男の姿は、大阪第一ホテルの1階フロントなどに設置されていた防犯ビデオに残されていた。男は16日の午後2時10分頃にひとりでチェックインし、犯行後にホテルを後にする際には、チェックイン時に着用していなかったコートを羽織っていた。

 このコートは返り血を隠すためであろう。また、客室の備品が犯行に使用された形跡はなく、紛失したものもないことから、男はあらかじめ凶器を用意していたとも推測された。

 しかし捜査を開始した警察官を驚かせたのは、室内から指紋が全く検出されなかったことだ。

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 犯行があった1994年当時、携帯電話の国内普及率は3.5%で、男はデートクラブへの電話もホテル備え付けの客室電話からかけている。しかし受話器やドアノブなど、指紋や掌紋が付着しているはずの場所を調べても、ついに1つも指紋を採取することができなかった。

昭和期の阪急百貨店前の様子 ©AFLO

 大阪第一ホテルの宿泊カードには市内に実在する他人の名前と住所が書かれており、捜査は行き詰った。

初対面のデート嬢を無差別に殺害し、財布入りのバッグを奪って逃走

 これらの事象から鑑みるに、犯人の男はかなり用意周到な性格であると推測できる。繁華街のど真ん中で凶行に及んだこと、被害女性に執拗な殴打を加えていることなどからは突発的な犯行にも見えるが、あらゆる証拠が事前に準備された「計画的犯行」であることを示唆していた。

 派遣された初対面のデート嬢を無差別に殺害したうえで、財布入りのバッグを奪い、人目につかず逃走……。これは計画的な強盗殺人事件なのだ。

 警察は容疑者の姿を印刷したチラシを配布し、広く手がかりを求めたが、有力な目撃情報は得られなかった。

 また、犯行現場には男の体液が残されておりDNA鑑定が行われたが、こちらも有力な手がかりにはならなかった。そもそもDNA型鑑定は、前科があったり過去に逮捕された人などから採取したDNAのデータベースと照合して一致する者を割り出すしくみであり、前科がない人間を見つけることはできない。加えて、まだ日本ではDNA鑑定が導入されたばかりでデータベースが十分ではなかった。