1ページ目から読む
2/6ページ目

「絶対にハンコなんか押さない」

ところが、なかには固辞する権利者が現れました。それは、祖父の前妻の子どもたちです。

どうやら祖父は、前妻を捨てて不倫相手の祖母と再婚したらしく、祖父の前妻は女手ひとつで苦労して子どもたちを育てたようでした。前妻の子や孫たちはそのことを根に持っていたのです。

「なんで、母を捨てた元夫の子孫の相続の手伝いをしなきゃならないんだ!」という心境なのでしょう。

ADVERTISEMENT

正蔵は祖父の前妻の子や孫らに連絡を取ってみましたが、「絶対にハンコなんか押さない」「なぜ、あんたの相続に協力しなければならないの」と、にべもなく押印を拒否されました。

正蔵はもうヘトヘトです。「古民家のリノベーションに2000万円くらいかかるし、こんな大変な思いまでしてやることないよな」と、あきらめることにしました。正蔵が消耗している姿を見ていたひかりも、「しょうがないわよ」と同意してくれました。

国土の約20%は「所有者不明」

正蔵が古民家をリノベーションするためには、銀行からリフォーム資金の融資を受ける必要があります。そのとき、土地と建物を自分の名義にして抵当権の設定登記をしなければ、融資を受けることはできません。

銀行に「あれ、おじいちゃん名義ですね。これじゃ融資は出せませんよ」と言われてしまうでしょう。

日本には、登記簿上の所有者が死亡していたり連絡先が不明だったりして、誰のものかわからない土地(所有者不明土地)がたくさんあります。その広さは、2016年時点で約410万ヘクタール(国土交通省調べ)。

これは国土の約20%を占め、九州の面積を大きく上回ります。つまり、九州の広さ以上の土地が「持ち主不明」なのです。

調べてみると「名義が何代も前から変わっていない」ことも

この大きな原因は、相続登記をしていないことです。土地を相続した人が「私が相続しました」と登記するのがルールではありますが、実は、これは長い間義務化されていませんでした。