地方の不動産を相続すると意外なトラブルに巻き込まれることがある。あす綜合法務事務所グループ代表の澤井修司さんの書籍『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)より、「相続した実家をリノベーションしようとして泥沼化した事例」をお届けする――。
身内の遺産相続協議はきれいにまとまったが…
伊集院家は、旧街道の宿場町にある名家です。
江戸時代に建てられたとされる築150年以上のお屋敷がありました。父はすでに亡くなって、母の千代と長男の正蔵夫婦がそのお屋敷で同居していました。長女の君代は嫁に出ています。
母の千代が亡くなり、正蔵と君代が相続することになりました。
土地・建物の資産価値は3000万円、預貯金は8000万円。正蔵は土地・建物と預貯金2500万円の計5500万円、君代は預貯金5500万円をそれぞれ相続することになりました。
兄弟での争いごとは一切なく、円満に遺産分割協議はまとまりました。これで一件落着かと2人とも思っていました。
「リノベーションしてカフェを開きたい」で問題発覚
正蔵の妻であるひかりは以前から、「古民家をリノベーションしてカフェを開きたい」という夢をよく語っていました。そこで正蔵は相続を機に、ひかりの願いを叶えることにしました。
しかし、正蔵が不動産の相続登記をしようとしたところ、祖父の名義のままになっていたことが判明。そうなると、勝手に建物を正蔵の名義で登記することはできません。
権利者は30人もいた
正蔵は祖父の戸籍までさかのぼり、権利者を確定させましたが、祖父は祖母と二度目の結婚だったことがわかったのです。権利者は、なんと総勢30人にものぼりました。
正蔵はすべての権利者に手紙を送り、5万円のハンコ代を渡して相続の権利を放棄してもらうように依頼しました。
ほとんどの権利者は「5万円ももらえるならラッキー」とばかりに、権利放棄の書類にハンコを押し、返送してくれました。