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共犯者の存在

 警察はさらに捜査を進めていくうち、ある仮説を立てた。ここまで大規模な死体遺棄はM井の単独犯では不可能だろう、ということである。

 そこで火葬業務を請け負っていた取扱主任のY本という人物を取り調べたところ、興味深いことを自白したのだ。

「燃料の節約の目的から、依頼された死體を完全に焼却しなかった」というのである。さらに貴金属の盗みも自白した。

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 つまり、そもそもきちんと火葬できる状態ではなく、はじめから不当に金を儲けるつもりでこのY本が企図したことだったのだ。

 さらにY本の証言を通じて明らかになったのは、もう2名の共犯者の存在であった。Y本が明かしたのは、M井がふたりの墓場の穴堀人にわずかばかりの金銭を与えて生焼けの遺体を埋めるのを半ば強要していた、という事実であった。

 ようするに、Y本は火葬をしないのに火葬料金を取り、遺体を埋めるという大変な作業はM井(実質の作業は穴堀人2名)にやらせて、さらにM井と一緒に貴金属まで取って不当に利益を得ていたというわけだ。ふたりは完全に共犯だったのである。

下駄華緒さんの著書『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常(3)』でも描かれた「桐生火葬場事件」 ©竹書房

 この桐生火葬場事件を受けて、まだ捜査途中であった4月17日、なんと桐生市長が辞表を提出している。

 そしてこの事件が大々的に報道されたあと、日本全国で火葬場に対する民衆の目が向けられて、実際に日本全国で火葬場での同じような事件や貴金属の窃盗などがことごとく暴かれている。これにより現在の日本の火葬場で「火葬場では棺を開けません」といった運用に繋がっていった経緯がある。

 要するに、火葬場では何もしていませんよ、手をつけていませんというアピールでもある。いまではそういったもともとの意味は忘れ去られ、運用だけが残っているパターンも多々ある。