同性婚+養子、あるいは人工授精によって生まれた子どもという家族も「普通」になりつつある
ヴァンス氏はハリスだけでなく、ゲイであると公表し、パートナーと同性婚をしているピート・ブーティジェッジ運輸長官に関しても批判の目を向けました。ブーティジェッジ運輸長官は夫とともに双子の赤ちゃんを養子にもらって育てているのですが、そんな家族の形は認めないと言わんばかりに、「民主党には子どもがいない。国の将来に『物理的に』貢献しない人ばかりだ」と発言したのです。
ブーティジェッジ運輸長官も、民主党大会でこの発言にはストレートに返答しました。かつてアメリカ軍の一員としてアフガニスタンに送られた彼は、「当時僕にはまだ子どもがいなかったが、国の将来への貢献は文字通り『物理的』だった」、つまり国への貢献度と子どもの有無などはそもそも無関係だと論点のずれを指摘したわけです。
そして同性婚を経て双子を育てている自身の家族について次のように述べました。「25年前はこのような家族のかたちは不可能だと思われていた。17歳の僕はインディアナの田舎で、(同性愛者の)自分が『ここにいてもいい』と思える場所(Belonging)はどこにあるだろうかと苦悩していた。しかし、それが”不可能”から”可能かもしれない”に変わり、やがて現実になり、今では『普通』にすらならんとしている。こんな劇的な変化をたった人生の1/4の期間で達成することができた」のだと。
「家族のあり方」も大統領選の争点に
今回、民主党大会で頻繁に耳にするのが、「家族のあり方についての個人の選択」というテーマです。これは誰を愛し、どのような家族を築くかという個人としての選択だけでなく、共和党が推す人工妊娠中絶禁止令や、自然妊娠以外の人工授精による妊娠などをアシストする医療の制約に反対する言葉でもあります。
民主党大会では、12歳のときに継父から受けたレイプで妊娠した女性も登壇しました。彼女はアメリカの約半数の州で事実上の人工妊娠中絶禁止令を施行できたのは「美しいことだ」と述べたトランプ氏に対し、自身の負の体験を語りながら、「自分の親の子どもを妊娠し、(中絶できずに)その妊娠を続けなければならないことの何が美しいのか」と訴えました。
妊娠中絶を夢見る人は誰もいないと言っても過言ではありません。産める/産めない、産む/産まない、はそれぞれの人生におけるたくさんの事情を考慮しての選択であり、妊娠が生物学的に「選択」ですらないことも多い。そうせざる(ならざる)をえないということは想像以上に多いのです。だからこそ、妊娠中絶という決断は女性本人のものでなくてはならないと思うのです。
子どもの発達障害もオープンにしたティム・ウォルズ副大統領候補
副大統領候補のティム・ウォルズ氏もまた、スピーチの中で妻グウェンとの間で7年間も不妊に苦しんだ経験を語りました。「あなた自身が不妊治療の辛さを経験したことがなくても、間違いなくあなたの友人で経験したことのある人はいるはずです。『今月もうまくいかなかった』と病院から電話がかかってくるたびに感じた落胆。しかし僕らには生殖補助医療を受ける選択があった。その結果、やっと子どもを持つことができたときには、娘にホープ(Hope、希望)と名づけた。ホープ、ガス(息子)、グウェン(妻)、君たちが僕のすべてだ」と。
ウォルズ氏は息子のガスに発達障害があることを公表しています。17歳のガスは、父親の言葉を聞き、涙を流しながら立ち上がり、聴衆席から「That’s my dad!(僕の父親だ!)」と父親を誇らしく思う気持ちを隠しませんでした。国中から様々なことを言われかねない公的な立場にありながら、多くの聴衆を前にした場で彼の感情を思い切り表現させてあげたこと。その勇気に接して、ウォルズ氏もその妻のグウェン氏も親として素晴らしい姿を見せてくれたと思ったのです。