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「トキシック・マスキュリニティ(毒性のある男らしさ)」からの解放

 著書『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』(文春新書)でも書いたように、近年、「トキシック・マスキュリニティ(毒性のある男らしさ)」からの解放はアメリカで広く議論されるようになりました。カマラ・ハリスの夫とその息子のスピーチはまさにそれを体現していたと思うのです。

ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』(文春新書)

 無意識のジェンダーバイアスは男性をも苦しめます。「男の子なんだから泣いちゃダメ」「男の子だからそんなのできて当然」「男は一家の大黒柱にならなければ」といった何気ないフレーズでも、幼い頃より同じテーマの言葉をかけられる度に「男の子はこう」という固定観念が植え付けられていきます。それは子ども達の可能性を狭めるだけでなく、心理的に傷つけている場合もあるのです。

 この数年、アメリカメディアでは長い歴史の中で「男とはこういうもの」と印象づけてきたことの悪影響を考え、「Toxic Masculinity(毒性のある男らしさ)」の呪縛を次世代に引き継がせないために、メディアを通してどのような男性像を映し出すべきかといった議論が盛んにされています。例えば、2019年のNFL(ナショナルフットボールリーグ)最高峰のスーパーボールの中継で、高視聴率を獲得した髭剃りメーカー・ジレットのCMが話題になりました。CMの前半には今まで男性が笑って見過ごしてきたセクシャルハラスメントや暴力のシーンが次々と映し出され、”Boys will be boys.”(男とはこういうものだから仕方がない)というフレーズが流れますが、そこにジレットのスローガンだった”The Best That a Man Can Get”(男のためのベストのもの)をもじって”Is this the best that a man can get?”(これが男としてベストなのか?)と質問が視聴者に投げかけられます。そこから虐められている男の子を助けに暴力を止めに入る男性、女性蔑視的な発言をする男性に「やめろよ」と声をかける男性、そしてそんな大人の男性を見ている小さな男の子が映し出されるのです。これからの男の子たちが男らしさの呪縛から解放されて育つために大人の男性がどのようなロールモデルになるべきかといったことを示唆する、未来に向けて希望を感じる感動的なCMでした。

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「男の子も悩んでいることを打ち明けてもいい。苦しいときには助けを求めてもいい。妻や家族とお互いをサポートし合う関係を大切にしていい。権力や仕事の成功だけが男性の強さを見表すのではない」。私の息子たちが育っていくなかで、これからもこのようなメッセージを受け取れることを願っていますし、日本でもそのような機会が増えてほしいと思います。