運命的としかいえない佐野と妻の出会い。ふたりのあいだに恋心が芽生え、互いの胸のうちで抑えきれないほど膨らんでいく様子は、生まれたての恋がいつもそうであるように初々しい。
そのとき佐野は、のちに妻となる女性に赤い帽子をプレゼントする。そして心から打ち解けたふたりは、深夜のクラブを抜け出し、コンビニエンスストアの前でカップラーメンを食べる。
赤い帽子をかぶった妻が、鼻歌を口ずさみながらカップラーメンを食べるそのひとときは、佐野にとって最高に幸福な瞬間だった。
幸せな瞬間はいつまでも続かない
だが5年後の彼の前からは、赤い帽子も、愛した妻も消え失せている。
現在を映す前半と、5年前を描く後半との対比は、永遠なものなどなにもないことを非情にも伝える。だとしたら、すべてを失ったあと、佐野はどうやって生きていけばいいのか?
この作品が観る人の胸を締めつけるのは、ある奇跡によって“幸福”が受け継がれ、いまもどこかで生きつづける可能性をそれとなく示すからだ。
『ぼくのお日さま』と『SUPER HAPPY FOREVER』は、どちらも幸せな瞬間に焦点を当て、同時にそれはいつまでも続かないという真理を提示する。たしかに人生とはそういうものなのかもしれない。だが光があれば影があり、きっとまた光が生まれる。だから人は生きていけるのだと、それらの作品はかすかな希望とともに映しだす。
『ぼくのお日さま』
STORY
少し吃音のある、ホッケーが苦手な少年タクヤ。怪我をして練習を見ていた彼は、同じスケート場で華麗に氷上を舞う少女さくらに心を奪われる。タクヤの恋心に気づいたさくらのコーチは、彼に提案し、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習をはじめるが……。
『SUPER HAPPY FOREVER』
STORY
海辺のリゾートホテルを訪れた幼馴染の佐野と宮田。コロナ禍の影響もあり、すっかり閑散とした街で、佐野と宮田は以前失くした赤い帽子を捜しつづける。失意の佐野の耳に、どこかから聞こえてくるメロディーは、亡き妻と出会った5年前の日々に彼を連れ戻し……。