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「漫画家になりたい」という夢に対して、親が放った驚きのひと言

 家は商売をやっていたため、両親が家にいる時間は短く、いわゆる「鍵っ子」だった。

「ある日、風邪で学校を休み、1人で家で寝ていたら、隣の席の女子がお見舞いに来て、少女漫画雑誌の『りぼん』を持ってきてくれたんです。当時は少女漫画を理解できなかったのですが、漫画っておもしろいなと思い、父親の機嫌がいいときに『漫画を買ってください』とお願いしたことがあります。すると、『ブラックジャック』の6巻を買ってきてくれました。読んだら夢中になってしまって。これが僕が漫画家になりたいと思ったきっかけです。でも、親に『将来は漫画家になりたい』と言うと『そんなヤクザな仕事はやめなさい』と言われました」

 また、渡辺さんはFtX(生物学的には女性として生まれたが性自認が男性にも女性にも当てはまらない)のXジェンダー当事者でもある。

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写真はイメージ ©maroke/イメージマート

 渡辺さんは、小学校3年生の頃から女性である自分の生物学的性に違和感を抱き始めた。このくらいの年齢から男子は男子で、女子は女子で遊び始める。男子はサッカー、女子はゴム跳びをして遊んでいる中、渡辺さんはどちらにも入れず、「オトコオンナ」と言われていじめを受け始めた。中学に入ると制服でスカートを履かないといけないのが苦痛だった。高校に入ると、もうスカートが我慢できなくなりジャージで登校するようになったという。

「でも、いつもジャージ姿でいる僕を見かねた理解のある先生が、あるとき学ランをプレゼントしてくれたんです。当時はまだLGBTQなんて言葉はなかったのに僕が男になりたいことを気遣ってくれてすごく嬉しくて、それからは毎日学ランを着て登校しました。高校在学中は漫画を描くための画材を買いたくて、バイトも始めました。でも、親にはせっかく働いて買った画材を捨てられました。Gペンなんて、ポッキリ折られました。画材だけじゃありません。お気に入りのレコードも真っ二つに割られていました。また新たな画材を買って隠しても探し出されて捨てられていました」