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「何かエフェクトを起こすことに関心がある」

 濱口 勝手な僕の想像ですけど、哲学がどこか社会から切り離されてしまっているという、ある種の危機感はあるのかなと思いました。これだけ分かりやすく、かみ砕いてくれるというのは、千葉くんがどこかそういうものを請け負ったというか、自分が切れかかってる線を繋ぐんだと思ってやっているような気がして、それがすごく感動的です。

濱口竜介監督。 映画監督。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』が国内外の映画祭で高い評価を得る。その後も『ハッピーアワー』(15)が多くの国際映画祭で主要賞を受賞、『偶然と想像』(21)でベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)、『ドライブ・マイ・カー』(21)で第74回カンヌ国際映画祭脚本賞など4冠、第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞。『悪は存在しない』(23)で第80回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞。7月に初の単著となる映画論集『他なる映画と1・2』が刊行される。

 千葉 そうね、昔みたいに小難しそうな書き方はしなくなりました。またやるかもしれないけど。いまは実用というか、もっと面白い生活の捉え方があるとか、何かエフェクトを起こすことに関心があるんです。

 濱口 この文章自体が実用的というか、要するに直接的に読んだ人に働き掛け、人を変えていくところがあると思います。さっき、これを読んでいるときはちょっと頭が良くなっているような気がする、ということを言いましたけど、一回読み通して、でもメモを取らなかったので、頭が良くなったような気がしたけど、実は全然そうではない。覚えてないから、もう一回ちゃんと読む。でも、そうやって変わっていくんですよね。何かが分かりかけたような感覚があって、その分かりかけた感覚を確かなものにしたくて何度も読む。確かにこの文章を読むと、ある種の変化が生じるっていう、そういう文章になっている気がします。

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「芸術映画」と俗な趣味との奇妙な混合

 千葉 ハマの場合は自分の映画を見た体験を通して、どういうことが起きてほしいとか、何か期待してることがありますか。

 濱口 自分は大学に入って知的環境が変化したことに、十分付いていけなかった。田舎じゃないけど千葉県の高校にいて、それまでは受験勉強みたいなことをずっとやってるわけですよね。教養はほぼないっていう中で、当時周囲にいた人たちは千葉君だけじゃなくて、大学の先生とか文筆家になったりする人たち。そういう環境の中に急に入ったので、自分は全然何も知らないんだなっていうのがスタートだった。映画もちょこちょこ見てるつもりだったけど、全然見てないと気づく。そういう自分が、だんだん変わっていく。実際、映画を見て、よく分からないけどいいじゃないかっていうことがたくさんあって。

 千葉 かつては反応できなかったものに。

 濱口 徐々に反応できるようになっていった。でも、基本的には自分の10代は、トレンディードラマを見たり、テレビゲームをやったり、マンガを読んだり、そんなところからできているわけです。急にはできなかったけれども、そういうものとだんだんと接続できるようになってきている。シネフィルたちが好むような芸術映画じゃないけど、でも、これぞ映画であるっていうものと、自分が俗な趣味として持っていたものというものが、奇妙な混合を果たすようになっていく。