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 ちなみに1984年に日本で公開された『クジョー』は、1週間で上映打ち切りとなってしまったとか……。

 承太郎一行がインドから四輪駆動車で移動する山道を襲ってくる車のスタンド「ホウィール・オブ・フォーチュン」も味わい深い。崖から落下してグシャグシャになったはずが自己修復して追ってくる、生きているような車……そう、『クリスティーン』(1987年邦訳)であるッ!

 執拗に追ってくる謎の車というシチュエーション、その車からドライバーの腕だけが見えているという不気味さ、峠道でタンクローリーと衝突という場面は、1971年の映画『激突!』へのオマージュでもあるだろう。この『激突!』はリチャード・マシスンが原作で、脚本も書いている。マシスンといえば、キングが大きな影響を受け、新作『コロラド・キッド 他二篇』で初お目見えした中篇「浮かびゆく男」で献辞を捧げた名作家。この「多重影響世界」の深さは計り知れない……ッ!

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 まだまだいこう。「セト神」のスタンド使い・アレッシーは幼児虐待的性癖を見せるサイコパスだが、その能力によって幼児化させられたポルナレフを追いつめ、斧で扉を破る。「入るよおお~~~んポルナレフ~~~っ」と破れ目から顔をのぞかせるシーンは、そう『シャイニング』のあまりにも有名なあの場面そのままッ! ちなみに映画版のジャック・ニコルソン(およびアレッシー)と違い、原作のジャックがドアを破るのは斧ではなく木槌である。

『シャイニング』上(スティーヴン・キング)

「皇帝」(エンペラー)のスタンド使い、ホル・ホースはカウボーイハットを被り、ウエスタンのガンマンのようないでたち。そしてスタンドはリボルバーに似た「銃」である。これはあえて影響というほどではないかもしれないが、キングの超大作『ダーク・タワー』の主人公、ガンスリンガーことローランド・デスチェインを思わせる風貌だ。

 もっとも、ホル・ホースの性格はローランドとは似ても似つかない、保身第一の小物キャラ。キングがローランドの造形でイメージしていたのはクリント・イーストウッドといわれるが、『ジョジョ』においては承太郎がイーストウッド的な雰囲気をまとう。ディオとの最終決戦での発言「『ぬきな! どっちが素早いか試してみようぜ』というやつだぜ……」もそれそのものだ。

「正義」(ジャスティス)のスタンドは(ネタバレだが)「霧」。街を覆いつくす霧といえば、『ミスト』である。荒木氏は『~奇妙なホラー映画論』で『ミスト』をキング映画第2位に選んでいるだけに、どこかでオマージュを捧げるのも当然か。第3部の話が長くなってしまったが、キリがない(霧だけに)のでこのあたりとしよう。

『ジョジョ』と『ダーク・タワー』の密かなシンクロ

 当然これ以降も『ジョジョ』にはキングネタが折々に登場する。第4部、虹村形兆の操るスタンド「バッド・カンパニー」は短編集『深夜勤務』収録の「戦場」に出てくるおもちゃの兵隊を連想させる。第6部のボスキャラ、プッチ神父は苦境に陥ったときに「落ちつくんだ…『素数』を数えて落ちつくんだ…」と自分に言い聞かせる。これは短編集『いかしたバンドのいる街で』の「動く指」の会計士と同じか!? やはり同作収録の「雨期きたる」で雨でなくカエルが降ってくるというトンデモ事態は、同じく第6部のスタンド「ウェザー・リポート」の能力として登場する。