1979年(95分)/東宝/2750円(税込)

 今回は『遠い明日』を取り上げる。前回の『櫛の火』に続き、田中収プロデューサー&神代(くましろ)辰巳監督による東宝作品だ。そして、またしても「よくこれを東宝で作れたな――」と驚く内容になっている。

 幼い頃に死んだと聞かされていた父親が、実は殺人犯として服役中と知った青年・明(三浦友和)が事件のあった北九州へ赴くところから、物語は始まる。真相を探るべく証言者たちを訪ねてまわる明には謎の妨害が相次いだ。やがて父親の無実を確信、再審請求に向け活動を開始する。

 これだけなら普通の社会派映画のため驚くことはない。だが、一筋縄ではいかない。

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 注目はキャスティングだ。若山富三郎、金子信雄、浜村純、殿山泰司、小松方正、神山繁、石橋蓮司といった日本を代表するモンスターたちが顔を揃えているのだ。彼らと神代の組み合わせに、驚きのポイントがあった。神代の手により、怪優たちがより怪しく輝くことになったのだ。

 最初にインパクトを残すのは浜村純だ。事件を担当した元刑事役で、体調を崩して入院中という設定なのだが、重要な証言をするも突如として素っ頓狂な大声を出したり、目が開きっ放しだったりと、どう見ても常軌を逸している。

 次は若山。明を何かと気にかける新聞社社長役で、一見すると優しい人情派というポジションになる。が、これがクセ者なのだ。頼れる味方のように思わせておきながら、サウナに誘ったり、目に入ったゴミをわざわざ舌で舐めて取ろうとしたり。妖しげな裏がありそうな気配がある。

 こうした異様な芝居の数々が、淡々としたロングショットを積み重ねる神代ならではのシュールな演出と合わさり、異様としか言いようのないアンサンブルが織り成されていく。それは悪夢的な恐ろしさを醸し出し、地獄巡りの迷宮に入り込んでいるかのように明の姿を映していた。

 極めつけは金子信雄だ。

 明の再審請求は成功し、父親は仮出所。ここで、この男は初めて作中に登場する。その父親を金子が演じるのだが、これがとんでもない。通常ならば悲劇の被害者=善人として描かれそうなところ、そうではないのだ。

 ゲスで下品な人間として、金子がノリノリで演じきる。特にラスト、祝勝会として息子と性風俗店で遊ぶシーンが凄い。この神代らしい猥雑な場面設定と、金子の厭らしさ満点の粘っこい芝居の組み合わせは、あまりに強烈だった。

 こんな最悪な人間を助けるために苦労を重ね、さまざまな人間を不幸に陥れることになったのか――。明ならずとも、尋常でない絶望感が去来することだろう。