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物語に「呼ばれた」スタッフたち

  渡辺あや氏による脚本の魅力を最大限に活かして映像に落とし込んだスタッフの力も大きい。

  映画やNHKの単発ドラマの脚本は書いていたものの、連続ドラマ未経験の渡辺氏を脚本に抜擢し、制作全体をハンドリングした制作統括の城谷厚司氏の慧眼。チーフ演出の田中健二氏をはじめとする演出部による、朝ドラにおいては挑戦的な「台詞に頼らない」映像づくり。

NHK連続テレビ小説『カーネーション』Part2(NHK出版)

  田中氏は、朝ドラでは初めての使用となるプログレッシブカメラを導入したことでも知られる。このカメラは小型なので演者の細かな動きに対応し、残像がわずかに残って映画的な質感になる。彼らもまた、渡辺氏の言う、「物語に『呼ばれた』スタッフたち」だということだろう。

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  本作で3rdディレクターをつとめた安達もじり氏は、のちに『心の傷を癒すということ』(2020)、『カムカムエヴリバディ』(2021)などのチーフ演出として辣腕をふるい、今や「BK(NHK大阪)にこの人あり」と言われる名監督である。

 また、当時若手ディレクターとして『カーネーション』に参加し、その後『らんまん』(2023)の制作統括をつとめた松川博敬氏にインタビュー(18週以降は「覚悟を持って描いた」奥深いのに、わかりやすい…朝ドラ『らんまん』はいかにして生まれたか《制作統括が語る》)した際、朝ドラ制作への思いについて、こう語っていた。

老年期の糸子を演じた夏木マリ(NHKドラマ公式サイトより)

 まだ若手の頃『カーネーション』に演出として参加したことが、多分に影響しているかもしれません。自分が朝ドラをやるからには、『カーネーション』に恥じないものを作らなきゃ、と思っていました。

  優れた朝ドラから枝分かれして、また優れた朝ドラが生まれる。朝ドラのひとつの到達点となった『カーネーション』は、視聴者にとっての評価基準となったばかりか、作り手の指針にもなっているようだ。