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「死者と生者は『共生』することができる」という死生観

  主人公は死へと向かっていくのだが、テレビの前の視聴者、ひいては人類に希望を与える物語となっているところが「老境編」の凄みだ。『カーネーション』と糸子は終局、属性の壁も、生死の壁さえも打ち破った。

「肉体の死は、終わりを意味するものではない」「死者と生者は『共生』することができる」。これが、この物語がいちばん言いたかったことなのではないか。このメッセージが、東日本大震災が起こった2011年に力強く放たれた。そんなところからもこの作品が「持っている」ものの大きさに慄く。渡辺氏の言葉を借りれば「すでにある物語が見る人に届きたくて」、このタイミングで実現したということだろう。

周防(綾野剛)に恋をする糸子。朝ドラではタブー視されてきた「道ならぬ恋」も描かれた(NHK公式サイトより)

31の国と地域で放送されてきた『カーネーション』

  最後に、データ的見地から『カーネーション』の「特別さ」を付け加えて、本稿を閉じたい。いまや日常と化した、Xのユーザーが朝ドラの感想をつぶやいたり実況したりするという現象は、『カーネーション』から定着したと言っていい。

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  2011年はTwitter(当時)ユーザーが急増した年であり、また、日本語のハッシュタグが使用可能になったのが同年の7月であった。Twitterのトレンドに朝ドラ関連のキーワードが並んだのも『カーネーション』が初めてだったと記憶している。イラストなどのファンアートが盛んに投稿されるようになったのも『カーネーション』からだ。

  それまで「主婦の暇つぶし」という色眼鏡で見られていた朝ドラを、「語る」「考察する」に値する上質なエンタメ作品として周知させた『カーネーション』の功績は大きい。本放送当時、文化人やクリエイターたちが、Twitterで『カーネーション』の熱い感想をつぶやいているのをよく目にしたものだ。そのなかには映像監督の大根仁氏もいた。それから10年後に『エルピス』で渡辺氏とタッグを組んだというのも熱い話である。

『カーネーション』は『おしん』(1983)とならぶ「朝ドラ二大巨頭」と言っていい。それが証拠に、『おしん』と『カーネーション』の2作品ともに、再放送の回数も、世界各国・地域での放送数も、他作品とは一線を画している。『カーネーション』は現在までに合計31の国と地域で放送されており、『おしん』の73の国・地域に次いでいる。2つとも「これが日本を代表するドラマです」と、自信を持って世界に発信できる作品ということだろう。

  再放送開始は9月23日月曜日から。初めて観る方も、何度目かの視聴になるという方も、ぜひ何度でも『カーネーション』の「深み」にハマっていただきたい。