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『虎に翼』の物語と共鳴する主題歌

 ずっと先、その人の名前が忘れ去られたあとにも、その人が始めた何かは残り続ける。だとすれば、いま私が起こす何かもまた、遠い未来の世界を形作るものとして残り続ける。100年という時間のスケールを置くことで、世界がこれからも確かに続いていくことへの信頼、一人ひとりが新しく始める変化によって世界が更新されていくことへの希望を、私たちは思い描くことができるだろう。

 誰かがあげた声は決して消えないこと。その声がいつか誰かの力になる日がきっと来ること。それは『虎に翼』のなかで最後まで、寅子をはじめとした登場人物たちがリレーしてきたメッセージだった。声は連鎖する。何より、多くの人にとってあまり名前を知られない存在だった寅子のモデル・三淵嘉子が100年前にあげた声は、私たちにとっての今、つまり100年先の社会を形づくる確かな礎のひとつとしてつながってきた。『虎に翼』と米津の主題歌は共鳴している。社会の理不尽の前で一人ひとりが抱く怒りや悔しさに連なりつつ、世界への信頼と希望の連鎖を描く作品として、確かに共鳴している。

『さよーならまたいつか!』が流れる『虎に翼』のオープニング映像(NHKのYouTubeチャンネルより)

米津が100年先に思い描く理想

 では、100年先の米津玄師はどうなるのか。生み出された楽曲はどうなっていくのだろうか。インタビュアーにそう問われた米津は「想像もつかない」と前置きしつつ、次のような理想を語った。

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「理想としていえば、詠み人知らずみたいになってほしいなっていう。どんどん数珠つなぎになって、自分自身が残したものがものすごく小さくなっていくかもしれないけども、それがなかったことには絶対ならないと思うし。そういうふうに、どんどんつながってくれればなとは思うし。要するに、遍在したいですね。世の中に遍在したい」(同前)

『さよーならまたいつか!』が収録された最新アルバム『LOST CORNER』。ジャケットのイラストは米津が描いたもの(ソニー・ミュージックレーベルズ)

『虎に翼』は最終回を迎える。毎朝テレビから流れていた主題歌は、もう聞こえてこなくなる。しかし、声は連鎖する。『虎に翼』とその主題歌は、この世界に対する信頼と希望をつなぐ祈りとして、これから先も世の中に「遍在」する。そういうものと、私たちは「対面」したはずだ。


*『さよーならまたいつか!』(作詞、作曲:米津玄師)