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 元刑務官で、死刑に関する著作の多い作家の坂本敏夫氏は、告知のタイミングが変更された背景について「(1970年代)当時、中核派や革マル派など過激派が起こした事件で現行犯逮捕された被疑者が大量に入所したことや、彼らの反抗的な態度への対処に追われ、死刑囚処遇に人手と時間を費やすことが難しくなったため」と分析している。

 法務省は「前もって告知するほうが、死刑囚により大きな心理的負担を与える」という立場を取っており、それ自体は一概に否定できるものではないが、本音で言えば自殺リスクや刑務官の負担を考えた結果としての「当日告知」であると見るべきだろう。

 法務省が「当日告知」の運用を始めてからも、全国で少なくとも3名の確定死刑囚が独房で自殺している。いずれも執行を告げられた後の自殺ではないとはいえ、当日に告知すれば死刑囚の自殺がなくなるわけでもない。

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上空から見た東京拘置所。49人の確定死刑囚が「その日」を待つ

「もし、いまの時代に死刑を事前告知したら現実問題として大変なことになるでしょう」

 そう語るのは、かつて確定死刑囚の再審を担当した経験のある弁護士だ。

「たとえば前日に死刑を通告すれば、死刑囚は直ちに外部に電報を打ち、再審請求をしていない状態であれば、弁護士が準備の書類を即時提出。同時に、人身保護法に基づく人身保護請求を裁判所に申し立てるでしょう。また、国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルに働きかけ、執行の停止を要請する。それらは直接、死刑の執行を止める法的効力を持たないとはいえ、執行の予定が事前に外部に漏れれば、円滑な執行は間違いなく困難になります」

 事前告知は面倒な事態を引き起こす――そこには死刑をなるべく国民の目から遠ざけたいという法務省の「本音」が垣間見えるようだ。

東京拘置所の独居房の様子

死刑囚の多くは「事前告知」を希望している

 2012年に行われた、死刑廃止議連(当時)による確定死刑囚133人に対するアンケート調査によれば、回答者78人のうち6割以上にあたる51人が「執行の事前告知」を希望しており、事前の告知は不要とした回答者は4人にとどまった。

 結果を見る限り、告知からわずか2時間で執行される現行の運用は、死刑囚の側から支持されていないように見えるが、一方で被害者の遺族や現状の世論はそれを是認している。他者の命を奪った人間の「人権」はどこまで認められるのか。死刑囚の側からの問題提起が世論を動かすためには、まだ多くの課題が積み残されているように見える。