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カップルセラピーは「勝ち」が宿命づけられている

三宅 東畑さんのカップルセラピーを受けに来る人たちは、やっぱり関係を修復したいと思っているのでしょうか?

東畑 そう。だからカップルセラピーは勝ちが宿命づけられています。2人で考えていこう、そのために申し込もう、とできた時点で勝ちなんですよ。これはもう愛以外の何物でもないでしょう。

 不登校の問題もそう。例えばお母さんが息子を不登校で連れてくるという時に、「お父さんも来れますか?」と僕はよく聞きます。この質問の答えに、すでに夫婦の関係が出ている。何か問題があったときに、パートナーを巻き込めるかどうか。相手が来た、つまり巻き込めたなら、もうすでに家族のつながりが回復し始めている。

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 要はうまくいってないと自覚することが大事なんですよ。心を麻痺させて、やり過ごしている部分があると気づけた時点で、ちょっとゾンビじゃなくなってるわけですよね。

東畑開人さん

三宅 アツい……! たしかにゾンビ化していると気づけたら、本当に今のままでいいのか、と考えますもんね。「こんなに仕事がうまくいっている自分がまさかゾンビだったなんて」とも思うでしょうし。

東畑 そうやってゾンビの部分に気づいて、各々が傷や寂しさを自覚できたとしても、相手にうまく受け止めてもらえるとは限りません。でも、そこから揉めて、混迷を深めていくのは僕はいいことだと思っています。問題を解決するんじゃなくて、問題を深めていく必要があるんです。

※働いているとなぜ愛することが難しくなるのか、若者世代がマッチングアプリを使って感じる戸惑い、「おひとりさま」の次の問題などについて語った全文は、発売中の『週刊文春WOMAN2024秋号』で読むことができます。

とうはたかいと/1983年東京都生まれ。臨床心理士。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。白金高輪カウンセリングルーム主宰。専門は臨床心理学、精神分析、医療人類学。著書に『聞く技術 聞いてもらう技術』(ちくま新書)、『ふつうの相談』(金剛出版)など。

みやけかほ/1994年生まれ、高知県出身。 文芸評論家。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了(専門は萬葉集)。著書に『「好き」を言語化する技術』 (ディスカヴァー携書)、『30日de源氏物語』(亜紀書房)、『娘が母を殺すには?』(PLANETS)など。 

写真=佐藤亘/文藝春秋