臨床心理学者で『雨の日の心理学 こころのケアがはじまったら』を上梓したばかりの東畑開人さんと、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が15万部を突破し異例のヒットとなっている書評家の三宅香帆さん。

 仕事と家庭との関係、「揉める」ことの素晴らしさ、寂しさと向き合うこと……パートナーシップについて、2人が語りました。対談一部を『週刊文春WOMAN2024秋号』より抜粋・編集し、掲載します。 

(左から)三宅香帆さん、東畑開人さん

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「中年の危機」とは「カップルの危機」である

三宅 私、『群像』で「夫婦はどこへ?」という連載をはじめたんです。親子の話はフィクションでたくさん描かれているのに、夫婦の話になると途端に少なくなると感じたことが動機でした。

 河合隼雄さんが、村上春樹さんとの対談で「これからは夫婦が一番大変だと思う」というようなことをおっしゃっていました。共働きで育児も共同でやることを求められ、「対話しながらやっていきましょう」という風潮が強くなっている。だけど当然、対話してもうまくいかないことは多い。仕事と違って、パートナーシップは面倒臭くて予測不能で、どうすればいいかわからない人が増えているんじゃないかと思っています。

東畑 河合さんが文学作品を読み解きながら中年期の危機について書いた『中年クライシス』という本があります。これはほとんど夫婦の話なんですよ。

三宅 そうか、あれは夫婦の話だったんですね。

東畑 中年期の危機って仕事やキャリアの問題として捉えられがちだけど、もっとヤバいのが夫婦やパートナーシップの問題です。いつも一緒にいてよく知っているはずの人が、ある日まったく意味が分からない存在として立ち現れてくる。『ねじまき鳥クロニクル』(村上春樹著)もそんな話でしたね。

三宅 妻からいきなり「私は牛肉とピーマンを一緒に炒めるのが大嫌いなの」と言われた主人公が、作っていた料理をゴミ箱に捨てる場面がありますね。一緒に住んでいたのにそんなことも知らなかったのか、っていう。

東畑 この「知らなさ」は河合隼雄の考えによると、それまでの自分が生きてこなかったものが集約されて現れたものです。自分の人生からシャットアウトしていたものをパートナーが持っていた、ということですね。