山科という駅は、言うなれば運命の分かれ道のようなものだ。何を大げさな、と言われそうだが、少なくともこのあたりの鉄道に不慣れな人にとってはそうなのだから仕方がない。

 どういうことかというと、京都方面からやってくる新快速列車は、山科駅で二手に分かれるのだ。ひとつは、まっすぐ東に向かって大津や草津、守山といった駅を経て米原方面へ走る琵琶湖線。もうひとつは、比叡山延暦寺の東の麓、坂本や琵琶湖大橋に近い堅田などの琵琶湖西岸を通って北を目指す湖西線。行き先にはそれぞれ違いはあるが、どちらも最終的には敦賀駅へと繋がってゆく。

 で、この琵琶湖線と湖西線の違いが、運命を分かつのだ。

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 慣れている人ならば、草津に行きたいときは琵琶湖線、つまり「米原経由」などと案内されている列車に乗ればいいとすぐにわかる。逆もまたしかり。

 ところが、不慣れだったらこれがたまらない。間違えて、湖西線に乗ってしまってもう大変。気がつけば山科を過ぎ、大津京も過ぎ、比叡山坂本駅あたりで何か変だと気がついても時すでに遅しである。

 ……と、このような悲劇の道を辿るのか、スムーズに目的地に着くのか、その運命の分かれ目が山科駅なのだ。

 まさかそんな間違いを、と思うだろうか。でも、たとえば京都の大学に進学した学生さんなんて、米原だとか湖西線だとか言われたところでよくわからない。慌てて飛び乗って、それが悲劇の一丁目。ずいぶん昔のことですが、筆者も京都に住んでいたことがあるからよくわかるのであります。

 

 そんなわけで、山科という駅は何か特別な駅だというイメージを持っていた。京都には山科に住んでいる人はまったく珍しくもなんでもない。が、そんな知り合いの家の最寄り駅というよりは、琵琶湖線か湖西線か、軌道修正ができる最後の駅というようなイメージが先行していたのだ。ああ、思い出すだけでもおっかない。

 でも、改めてそんな山科駅に何があるのかはよくわからない。運命の分かれ道ということ以外では、ざっくりと“京都の郊外”といった印象があるくらいだ。ならば、ここで改めて山科駅をきちんと歩いてみようではないか。

JR東海道本線&湖西線“ナゾの途中駅”「山科」には何がある?

 そういう理由をつけて、山科駅にやってきた。京都駅からそれこそ琵琶湖線でも湖西線でも新快速でも各駅停車でも、何に乗ってもものの5分で山科駅に着く(あ、特急は停まりません)。

今回の路線図。京都からは5分ほどの場所にある「山科」

 京都駅と山科駅の間には、短いトンネルがある。東山丘陵を貫くトンネルだ。トンネル北側の東山丘陵西麓には清水寺、南端には稲荷山があって西に伏見稲荷大社が鎮座するという、そういう位置関係である。