西山朋佳女流三冠による棋士編入試験。後編では、対局現場の雰囲気がどのようなものだったかを書いてみたい。

 朝の9時半過ぎ、東京・将棋会館には既に多くの報道陣が集まっていた。大きな勝負はたいてい「特別対局室」で行われるものだが、今回は「高雄」。将棋会館4階の高雄・棋峰・雲鶴は3部屋を合わせて大広間と呼ばれることが普通で、大広間すべてを使えば特別対局室よりは広い。もっとも、広く使うならば大広間の真ん中である棋峰を対局室にすればよかったのにという声もあった。これは両サイドに広く使えるが、床の間に当たる箇所がなくなるので、見栄えは落ちる。一長一短か。

注目の対局とあって、多くの報道陣が集まった

先手に強い西山が後手番に

 振り駒の結果、西山の第1局は後手番となった。これで第1、3、5局が後手番、第2、4局の先手番が確定する。有利とされる先手番が少ないのは懸念材料だが、過去の棋士編入試験はいずれも受験者が第1局に後手番を引いており、そこで勝ったものが合格している。

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 1局ごとに対戦相手が異なる編入試験と、同一の相手と戦うタイトル戦を比較するのはおかしいが、タイトル戦の五番勝負では基本的に第1局で先手を引く方が得だと見られることが多い。というより、もし0勝3敗のストレートで負けた時に先手番1回、後手番2回でそうなったのがモヤモヤするということのようだ。これが七番勝負だとストレートで負けても先後が2回ずつなので納得できる(せざるを得ない)ということである。

 特に西山は先後の勝率差が大きいと言われている。編入試験第1局開始の時点で、公式戦での先手番勝率は29勝19敗の6割4厘、女流棋戦での先手番勝率は108勝27敗の8割ちょうどであるのに対し、後手番だと公式戦は13勝23敗の3割6分1厘、女流棋戦では87勝40敗の6割8分5厘となっている。ちなみに試験直前までの24年度公式戦全成績をみると、先手勝率が5割4分ほどだ。

AIの示す評価値はまったくの五分と五分

 開始時の写真を撮り、大広間を退室。第1局の立会人を務めた中川大輔八段が詰める控室は3階の一室に用意されていた。この3日前に獺ヶ口笑保人新四段と吉池隆真新四段の2人がプロ入りを決めての初仕事として自らの調査書を書いていた部屋である。