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 戦型は西山が得意とする三間飛車に。高橋は持久戦を目指した。先手玉は場合によっては居飛車穴熊への組み換えも見ている。序盤の進行について中川八段は「2人とも指し手が速いよね。戦型は予想していたんでしょう」と解説。続けて対局開始時の様子を「西山さんは場数を踏んでいるから緊張していないように見えました。さすがだよね。高橋君はソワソワしていた」と語った。

西山朋佳女流三冠

 序盤の注目点は30手目、ここで西山が指した中央への銀上りを「後手番でも積極的だよね。西山さんらしい。局面を自ら引っ張る姿勢がありありと出ています」と中川八段。

 もっとも、形勢は難しい。昼食休憩の時点でAIの示す評価値はまったくの五分と五分だ。だが再開後に西山が指した着手で、形勢はやや先手側に振れた。ここから本格的な攻防に突入する。

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角打ちが勝敗を分けた

 午後になり、控室を千葉幸生七段が訪れた。「驚いた。(広めの)飛燕・銀沙じゃないんですね。次から西山さんの応援に女流棋士が多く来たらどうするんだろう」と。そして中川八段との検討が始まる。局面は直前に高橋が受け身の手を指した影響か、互角あるいはやや後手が指せるという様相を呈していた。

控室で検討する千葉幸生七段(左)と立会人の中川大輔八段(右)

 この日に自身の対局があった棋士も試験の様子は気になるようで、たまたま会館内で筆者と鉢合わせした時「どうなってます?」と聞かれた。思わず「西山さんが指せるようです」と答えてしまう。もちろん離れた場所での会話だが、対局室に聞こえないように小声で話す。

 勝敗を分けたのは90手目。西山が端へタダの角を王手で放り込んだ瞬間である。タダだがこの角は取れない。先手玉があっという間に寄ってしまう。高橋は取れる角を取らずに辛抱したが「角を打たれた瞬間、負けたと思った」と振り返っている。

 もっとも、厳密にはこの角打ちで決まったわけではない。西山自身は「本譜も負けていてもおかしくないかと思った」と振り返っている。角打ち以降は基本的に後手勝ちで推移していたが、先手に一瞬のチャンスが訪れた局面もあった。中川八段は「勝因は角打ち。ただ以下も対局者の心理としては難しい。先手に一瞬チャンスが訪れた局面も、それを生かせる手はいかにも指しにくい」と解説した。

棋士編入試験で幸先のいいスタート

 かくして西山は大きな白星を上げた。終局直後のインタビューでは「今日までに自分のできることはやるつもりで過ごしていました。高橋四段は受け将棋の居飛車党という認識で、難しい局面で力強い手を指されている印象がありました。今日の将棋は一手一手難しく、模様を張れた局面もあったと思いますが、形勢は好転していないのかと思っていました。ずっと気が抜けない将棋で、最後が幸運な面も大きかった。次局以降も準備して全力を尽くせるようにしなくてはいけないのかと思います」と語った。