敗れた高橋は「本局は33手目あたりまでは準備をしていましたが、中盤の押し引きでもっとうまく指せなかったかなという思いはあります。終盤の入り口では駒損だったので、長引くと苦しくなる意識がありました。本局は自分の持っているものをすべて出し切って指しました。結果は今の自分の現在地かなと思います」と振り返った。
小山四段は「年代も実力も近く、ライバル」と評した
この日のABEMA動画中継では小山怜央四段が解説を担当していた。小山四段も棋士編入試験を突破してプロ棋士になった1人である。またアマ時代には編入試験の受験資格獲得のため、プロ入り後はフリークラス脱出のために戦っている最中、西山とぶつかった経験もある。この2局とも双方にとって大きな勝負だった。後日、改めて話を聞いた。
「自分が編入試験の第1局を勝ったのは、もちろん大きかったんですけど、指した将棋の内容が悪くなかったので、この調子で頑張ればという思いもありました。プロになってからの対西山戦は、編入試験までもうすぐというのはもちろん知っていたんですけど、こっちもフリークラス脱出がありましたから。それに相手にとって大きな一番は頑張らなくてはいけない、いわゆる『米長哲学』ですよね。終盤まで粘らなくてはという思いで臨んでいました。
自分にとって西山さんは年代も実力も近く、ライバル的な意識はありますね。試験の第1局については、大舞台でああいう手(端への角捨て)が指せるのは、心身ともに充実していることなのかと思います」
第2局は「僕は絶対勝つ」と宣言する山川泰熙四段と
筆者は試験の2週間ほど前、8月27日に行われた西山の将棋を間近で観戦していた。女流名人リーグの対渡部愛女流三段戦である。さらにこの女流名人戦のわずか2日前に、西山は青森へ遠征して倉敷藤花戦を指していた。
感想戦終了後、「忙しすぎませんか?」と尋ねると、「そうですね。でもこれからがもっとですから」という返事が。以降、編入試験までの対局スケジュールだけを書き出すと、
・8月31日、白玲戦第1局で福間女流五冠に勝ち
・9月4日、倉敷藤花戦準決勝で伊藤沙恵女流四段に敗戦
・9月6日、女流王座戦挑決で香川愛生女流四段に勝ち
という状況だった。そのような中、対渡部戦の感想戦の最中に「千日手でも」と西山がつぶやいた瞬間があった。これほど対局が続いているのに、千日手も非としない。心身が充実していなければできないことだろう。
まもなく第2局の山川泰熙四段戦が行われる。山川四段の師匠である広瀬章人九段から「山川は『僕は絶対勝つ』と言っている」という話を聞いた。世間の将棋ファンは西山応援が圧倒的多数だろうが、山川四段は自身のプライド(極論を言ってしまえば、試験官にかかっているのはこれだけである)にかけて意地を見せてほしいし、西山にはそれを乗り越えて自らの夢をつかんでもらいたいと願う。
写真=相崎修司