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「人生で初めて、父に自分の本当の気持ちを真正面から伝えようと勇気を振り絞ったのに、結局無駄でした。父が理解してくれるんじゃないかと淡い期待をしていた自分を情けなく感じると共に、『もう一生理解し合えないんだな』と、気持ちの糸がプッツリ切れてしまいました」

 その翌朝、父親は「もし転職するならもう、お前は井上の姓を名乗らなくていいからな」と言った。

「社会人になっても、父の言いなりの自分。父を恨み、父のせいにすることで、僕は自分の弱さから逃げ続けていました。そうでもしないと、心身のバランスが取れなかった。僕は父に依存していたのです」

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 井上さんは、転職するのをやめた。

 数日後、父親は得意そうに、「俺は正しかっただろう?」としつこく同意を求めてきた。

「少しでも父に期待した自分が愚かだったんだ。もう父に期待してはいけないんだ」

 井上さんは心の中で何度も自分に言い聞かせながら、父親に「そうだね」と答えた。

「なんてことしてくれたんだ!」

 同じ年に井上さんは、職場で出会い、2年ほど交際していた同い年の女性の妊娠がわかったことをきっかけに、結婚を決めた。

 それぞれの両親に挨拶を済ませ、結婚に向けて順調に進んでいたが、両家顔合わせの食事会の時、事件は起こった。

 彼女の両親とは何度も顔を合わせており、井上さんをとても可愛がってくれていた。特に彼女の父親は、親しみを込めて、「秀人」と呼び捨てで呼んでいたのだが、井上さんの父親はそれが気に入らなかったようだ。

「何で俺の息子を呼び捨てにするんだ!」

 突然激昂した井上さんの父親は、周囲が驚きのあまり言葉を失うほど、1人でひたすら暴言を吐き、彼女の両親を罵倒し続けた挙句、「ふざけんな! やってられるか!」と言って家に帰ってしまった。

 会をぶち壊された井上さんは、とにかく彼女の両親に平謝りしたが、両親よりも彼女の方が、「私の両親が侮辱された」「あんなお義父さんとやっていけない」と憤慨。結婚が白紙に戻ってしまう。

「僕自身もすごく傷つきましたし、『なんてことしてくれたんだ!』と思いました。それでも、何度も謝罪に伺ううち、向こうの両親が『もう気にしなくていいよ。水に流そう』と言ってくれたため、何とか結婚することができました」